AM夏祭り2010

今年のテーマは「エロス」ということで、QTRよりQTとSTでそれっぽい感じのお話を書いてみました。





「スウィーティー、ブラのサイズが合ってないんじゃない?」
 なんていう、とっても大きなお世話なQTの発言から、何がどうしてこうなったのかは分からないけれど2人でランジェリーショップに来ることになってしまった。普段、通販ばかり利用しているSTにとって専門店に入ることは珍しく、僅かに緊張したが背筋を伸ばして平静を装った。
 STは店員に採寸してもらいサイズを確認、渋々選んで試着室に入る。と、何故かQTもついて一緒に入ってきた。
「ちょっと、なんでアンタまで入ってくるのよ! 一人でやるから出てってよ」
「広いから大丈夫、二人で入れるよ。最近は友達と一緒に試着できるお店ってあるみたいだね」
「いつから友達になったのよ」
「まぁまぁ、いいからいいから。それにスウィーティーにちゃんとした付け方を教えてあげたくて。合ってるのをつければ胸元をシャーリングで誤魔化さなくてもよくなるかも知れないよ」
 ST、おおいにカチンとくる。
「あれはデザインよ、好きでやってるの! さっきから聞いてれば言いたい放題……」
「ほら、あんまり時間掛けると他のお客さんに悪いよ、試着しよう」
 そう言いながらQTはSTの背中のファスナーを下ろす。
「やめっ、自分でやるから!」
 ひとまずQTが服から手を離して大人しくなったので、早く済まそうとワンピースを脱いでブラの試着をする。採寸の結果は普段使っているものより1サイズ大きくて、本当にちゃんと測れているのだろうかと信用できない気持ちがあったけれど、案の定浮いたり余ったりしまくっている、気持ちがめげる。
「出来た?」
 QTが後ろから顔を覗かせる。
「勝手に見ないで」
「スウィーティー、ちゃんとつけられてないよ、直してあげるから」
 言うが早いが、背後からQTの腕がのびて、見る間に左右のカップを浮かせて周りのお肉ごとそこへおさめてしまった。突然胸を掴まれたことにびっくりはしたけれど、あまりにも早くて手際が良くて、そしてうまい。悔しいけれどうまい、STが自分でつけたのとは違って、カップにぴったりおさまっている上に胸が大きく見える。
「どう? ぴったりじゃない」
「……なにアンタ、店員でもないのになんでこんなことパッと出来るの?」
「フフ、私はおしゃれの探求者だもん、日々色々と研究してるんだから」
 そのスキルは認めざるを得なく、STは閉口してしまう。
「もういっこのカップの浅い方のも試着してみよう、今度はつけてあげようか?」
「……わかったわよ、好きにすればいいでしょ!」
 プツンと後ろのホックが外され、新しいブラを手に取る。
「まず腕を通してね、うん、それからちょっとお辞儀するみたいに体を前に倒して、そうそう、そんな感じ」
 言われる通りにして上体を前に傾けたSTに、QTは胸の下の位置にカップを宛てがって背中のホックを止める。
「はい、体戻していいよ」
 ここまでならSTにも難なく出来そうだった、問題はこの後で、どうやっていたのか非常に気になるところだった。興味が沸いているのは事実だ。
「続きは……片方やってみるから、もう片方はスウィーティーがやってみて」
「ゆっくりやりなさいよ、さっきみたいに早いと分からないから」
「うん」
 QTは左側のカップに右手を深く差し入れ、サイドから下から手のひらいっぱいに強く掴んで引き寄せる。痛いほどではないけれど誰かにこんなに強く胸を掴まれるのは初めてだった。今さっきもされたというのに、やはり面食らってしまう。けれどそんな風に気にしているのはSTだけのようで、QTは涼しい顔で右手を斜め上に引き上げ、ブラのカップの位置を少し整えると先ほどと同じようにきれいにぴったりとおさまっていた。思わず感心してしまう。
「左の場合は右手で、右の場合は左手でやるといいよ」
 STもQTを真似してみたが、同じようにはならない。何故か自分でやった右の方が随分と小さい。
「もっと思い切ってやるんだよ、こんな風に」
 右のカップにQTの左手が差し込まれ、また強く掴まれる。STは同じようにやっているはずなのに何が違うんだろうと思う。
 引き上げられてすぐに終わるはずが、途中でQTの手が止まる。不自然に動作が止まり二人とも動かないまま、QTは黙ったままでSTは変に焦る気持ちが生じてしまう。
「ねぇスウィーティー、私は誰?」
 やっと沈黙が破られたかと思えば、全く予期せぬ言葉だった。
「何言ってるの、キューティーでしょう?」
「違うよ、私はキューティーじゃないよ」
「なにバカ言ってるのよ!」
「私はスウィーティーの知らない人」
「え……キューティーに決まってるでしょ! 変なこと言うのやめなさいよ」
「どうして私がキューティーだって言えるの?」
 当たり前と思っていることに何故と言われても答えようなどなく、次第に苛立ちが不安に取って代わられていく。
「それに私、女の子じゃないんだよ」
(そんなはず無い、鏡に映る顔も体も女の子よ。今胸に触れている指だって全然荒れていなくて、白くて細くてすべすべして……)
 急に胸に触れられていることを強く意識してしまい、同時に足元からじわじわと恐ろしさがせり上がる。体が強張り、肩と腕が震えそうになる。
(訳がわからない……)
「……いや……」
 混乱の果てに掠れるような声がこぼれてしまった。
 その途端、(おそらく)QTの左手がすっと引き上げられ、何事も無かったようにブラの形を整えられた。
「冗談だよ」
「は……?」
「ピンクのサングラスのQTRは世界に一人だけだよ。驚いた?」
 明るい声と表情で、いつものQTだった。STの中で渦巻いていた様々な感情が一つにまとまって沸騰する。
「バカ死ねアンタなんか死んじまえ!!!」
「アハハ……スウィーティーは可愛いなー、クスクスッ……アハハハハ……」
 コロコロと笑いながら背中から抱きつかれる。
(QTのくせに、バカのくせに、私のことをからかうなんて……こっちがからかってやりたいのに、悔しい!!!!!)
 ピンクの晴れやかな笑顔とまだまだ縁が切れないだろうと思った。きっちり復讐した上で打ち負かしてやらないと。
 今後の計画を練りながらSTは闘志を燃やした。





ご覧いただきましてどうもありがとうございました。

書いた人:R(twitter/1_Hz


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