REM - ! - シキ雪シュークリーム





「兄さん、兄さんっ、ただいま!
 今日は初任給が出たんだ!
 それで兄さんにおみやげを買ってきたよ!!」

 扉の開く音と同時に息せき切った雪の声が部屋の中に飛び込んでくる。
 雪は袋の中から大きな箱を取りだしてシキに渡した。

「なんだい? 重たいな」

「はやく開けてみてくれよ」

「そう急かすな、今開けるから…」

 シキは箱にかけられた細いリボンを、はさみを使わずに器用に指でほどいていく。
 包み紙を開き、フタを上げて一瞬目を見張る。
 それは他の人が見たら気が付かないくらいわずかな表情の変化だったが、当然雪には分かった。

「これは…」

「そう、兄さんの大好きなシュークリーム
 お店で売ってる一番大きいヤツだよ」

「質量といい、概形といい
 大きめのキャベツ1個分ぐらいあるな」

「ふだん普通の大きさのしか食べないだろ、
 今日は思い切って買ってみたんだ
 …どうかな?」

 雪は荷物を抱えたままじっとシキを見上げる。

「ああ、さっそくいただこう」

 途端に雪は顔を綻ばせる。

「よかった、そう言ってくれると思った
 ちゃんとストローも用意してるんだ
 100本入りしか売ってなかったからちょっと多いんだけど」

「すぐに使って無くなるから構わないさ」

「うん、じゃあこれ使って好きなだけ中身食べて
 シュー皮は俺が食べるから」

「いや、今日は私が皮も食べよう」

「ええっ、なんでだよ?
 いつもは(二人で)一緒に食べてるじゃないか」

「せっかく雪が社会に出て初めて稼いだお金で買ってきてくれたんだ
 これは全部食べさせて欲しい」

「兄さん……………」

「うん、全部食べて!
 兄さんが喜んでくれてうれしいよ」

「ありがとう、雪」

 はにかみながら雪はくるりと身を翻し、すぐにお茶を入れてくるから待ってて、と部屋を後にした。
 シキは雪の後ろ姿を見送りながら、その目元に静かな笑みを湛えていた。