「1号っ」
1号はルインに呼び止められた。
「これ、1号にあげる。開けてみて」
紙袋の中身を引き出して1号は確認する。
「なんだろう……パンツか?」
「そう、苺柄の。珍しいでしょ?
この前見付けて、1号は苺が好きだったなって思って」
「苺が好きなのは……lukaじゃなかったか?」
「あれ、間違えた? ごめん……」
「いいや、オレも好きだよ。ありがとう」
「……よかった。自分の分も買ったんだ、お揃いだよ」
1号はルインの頭にぽんぽんと手をおき撫でる。
「そういえばルインは、元は人間じゃなくて猫だったんだよな」
「うん、完全に猫だったよ。それがどうかしたの?」
「猫の頃は服を着ていない……よな?」
「そうだね、全身に毛が生えてるからいらなかった。
猫は服を着ないしね」
「人になって服を着るようになって違和感を感じなかったか?」
「うー……ん、確かに最初はそう感じたけれど、すぐに慣れたよ。
僕の場合、地球の環境が厳しかったから
服を着ないわけにはいかなかったし。
それにね、ピアーが僕の身を守るために着せてくれたんだ。
最初はピアーの弟の服で、その後僕のためにって
別の服を用意してくれたんだ。
だから、服を着るのが好きになった」
「そういうふうに思えるのは良いことだな」
「1号は? 服を着るのは好きじゃないの?」
「オレは……あまり好き嫌いというふうには意識していない」
「そうなんだ、今でも慣れない?」
「慣れてないわけじゃないけど……以前少し話したことがあったかな?
オレは長いこと研究所にいて基本的に裸だった。
服を着せられることは滅多になかった。
外よりも研究所にいた時間の方が長いから、
オレ自身は着てない方が普通だって感覚がまだある」
「外に出て、最初は着たくないって思った?」
「そうでもないな……知ってはいたから。
エデンやチュルホロ星系は地球みたいに厳しい環境じゃないから
身を守るのが一番の目的ではなかったけれど、
社会のルールのため着ないとまずかった。
端から見ればオレは一見人間だろう?
これはだいたいどこへ行っても同じだな」
「そうだよね。人間って着て隠さないといけないんだよね」
「そういう必要性で着てるんだ。だから今のオレには必要な物だ。
それに着心地や機能性はいいものだと思ってる。
これは大事に使わせてもらうよ」
「うん……」
ルインは嬉しそうに笑った。
◇
「……ということがあったんだ」
つい先刻、1号が着替えていたところ雪に突然指差して笑われて「なんだそれは!」と聞かれたのに対し、ことのあらましを説明した。
「なるほどなー……ってことはルインもおんなじのを穿いてるのか!
ピアーの反応を想像すると……笑える」
尚もクツクツと雪は笑った。
「何か可笑しいことがあるのか?」
「いや、いいんじゃねえか? なかなか似合ってるぜ。
そうだな……確かにlukaあたりが喜びそうだ」
「そうか……? でもわざわざパンツを見せるという機会はないぞ。
ましてもう使ってるから新品じゃないし」
「ばっかだなー、パンツだけじゃなくおまえも込みで言ってんだ」
「それは……穿いた状態で見せるってことか? 尚更無いな。
lukaは女の子だろう、一応オレもそういうところは気を付けてる」
「ふぅん……寧ろ見せた方が喜ばれるんじゃねえか?」
雪が小声で話したため聞き取れず、1号は聞き返す。
「? 何て言った?」
雪は1号の肩に軽く手をのせて含み笑いをする。
「いやいや、おまえは女心がわからないやつだってことだよ。
清々しい鈍さだな」
「女心?
それがオレに足りていないなら、わかるようになった方がいいのか?」
「んーにゃ、現状困ることがないなら別にいいだろ。
俺だってあんま興味ねえし、おまえよりはわかるってくらいだ。
ま、何事も程々に、とだけ言っておくぜ」
不可解な表情の1号の前で雪は堪えようとしていたが、どうしても笑みが零れてしまっていた。
余談(反転)
ルイン君は普段、お魚の絵の入った子供用パンツをはいているかも知れないと思います
REM - !