「おーい、雪ー」

「え……?」

「良かった、会えた」

「おまえ……1号か?!」

「ああ」

「何でおまえがここに……………そうか、おまえも来たのか」

「雪がここにいるって聞いて探しに来たんだ」

「来たのはいいけどどうすんだ、
 こっから元の世界に戻してくれるってワケでもないんだろう?」

「そう、それなんだ。ここは一体どうなってるんだ?」

「おまえ、あの青い猫に会ったか?」

「ああ、青いのと、ピンクの雌と、オリオンって奴……少し話した。
 猫だらけだな、他にも変な奴らばかりだし」

「同感だ、帰りてえ…………気が付いたら無人島でサバイバル生活だろう、
 今度はこんな所で釣り暮らし、
 ハァ―――…あちこち飛ばされてワケ分かんねー」

「雪もそうなのか」

「おまえも同じか……」

「オレはとりあえず無事だから、なんとかなるんじゃないかと思ってるが」

「良い感じに前向きだな。
 で、さっきの話しに戻るけど、どうやらココの元締めがあの青い猫で、
 この世界があの猫の見てる夢だって言うんだから、
 その内覚めりゃ元に戻れるんじゃねえかとも思ってる。
 詳しいことは猫に聞けよ、俺に聞かれても分かんねえ、
 こっちがもっと聞きたいぐらいだ。
 そんなワケで、おまえ程じゃないけど俺もそれなりに開き直って暮らしてるぜ。
 慣れればココもそんなに悪くない、毎日釣りが出来るしな」

「……こんな寒い所で? ワカサギでも釣れるのか?」

「いいや、ここで獲れて俺が気に入ってるのはタイヤキだ、
 火で炙って食うとうまいんだぜ。ちょっと待ってろ……」

 雪はタイヤキを串に刺し、足元の焚き火のそばに立てた

「……っておまえの格好、見てるこっちが寒くなる」

「この辺りに来るまではずっと温かかったんだ、
 少し寒いけれど他に着るものは無いし……平気だ」

「テントの中に余ってるシャツがあるから貸すぞ」

「……いや、やっぱりいい、大丈夫だ」

「やけに遠慮するな」

「いや、遠慮ではないんだ」

「じゃあ着たくないってのかよ」

「………確かに着てない方が楽だし好きだな」

「露出狂め、おまえ山男と趣味が合うんじゃねえの」

「ヤマオ?」

「知らねえか」

「ああ」

「カランって国の山ん中で商売してる奴がいるんだ、
 会いに行ってみろ、多分楽しいから」

「? うん……探してみる。
 そういえば雪は厚着をしているのか? 普段と少し違うみたいだ」

「さすがにこんな雪の中で軽装じゃ凍えちまう、
 でも動きやすさも欲しいから薄手のを何枚か重ねてる」

「なるほど……襟元がいつもと感じが違うんだ」

「ハイネックか、普段必要ねえもんな………ん、そろそろ焼けたか。
 ほら、食ってみろ」

「熱っ……… 〜 …………これ、甘いな」

「それだけか、いつもコメントが単純だよな」

「雪が好きそうな味だ」

「ああ、毎日食ってるぞ」

「久しぶりだ、雪の手料理……」

「ハッ、これが料理だって? 焼いただけじゃねえか、
 なめられたもんだぜ、俺の本気を忘れたか?!」

「覚えてる、雪の作るものはみんなうまい」

「フン…………」

「雪はいつからここにいたんだ、ここで何をしているんだ?」

「数ヶ月ってトコかな、長いよなあ……。
 ここでやっていることはバイト」

「へ?」

「働かざるもの食うべからずだろ。
 ここに来た時にさ、青い猫達に頼まれて鎖術を教えることになったんだ」

「しっかり生活が出来ているんだな……」

「弟子だってもう結構いるんだぜ。
 時々訪ねて来て色々置いていってくれるし、
 わざわざ俺んトコまで来て鎖術をやりたいっていうくらいでさ、
 なかなか見込みのある連中なんだぜ」

「雪が師匠か……すごいな」

「ヘヘ、スゲーだろ。
 おまえも弟子入りに来たのか? だったら手錠をよこせ」

「え……なんだ、手錠って何に使うんだ?」

「……冗談だ。 ま、たまたまこの世界に
 他に鎖をやってる奴がいなかったからってのもあるみてーだけど。
 そうだ、おまえはどうするんだ、ここでどうやって過ごすんだ?」

「この世界について調べながら釣りをして食い扶持でも稼ぐかな、
 地球やあっちの世界で鍛えたから釣りには自信があるぞ」

「嘘吐け! おまえ殆ど釣りしてなかっただろう」

「食う分を釣るくらいはしてたぞ、それなりに」

「どこまでアテになるかだな、
 ……………そういや暗黒戦士ってここにゃいなかった気がするぞ、
 あの青猫と交渉してみたらどうだ」

「オレが師範に?」

「そう、ナントカ暗黒術って名前付けてさ、何が良い?」

「そうだな……オレの暗黒術は…………ホワイトヒル暗黒術?」

「おまえの両親の住んでた所っていう………行ったことねえじゃん」

「じゃあ、エデン暗黒術?」

「それもナンカ違う」

「ルインド暗黒術」

「それはルインのためにとっといてやれ」

「………難しいな」

「じゃあこうしろ、天然暗黒術!」

「………どうなんだ、それは」

「似合ってる! おまえにゃこれで十分だ」

「うーん、………うーん………………雪がそう言うなら………」

「よし、あとはどこでやるかだな」

「ここじゃだめなのか?」

「んー、なんかそれぞれの流派でテリトリーがあるみたいだぜ、
 詳しいことは俺も知らねえけどよ」

「オレはまだここに来てそんなに経っていない、
 この世界のことをよく知らないんだ、どこか適当な場所はあるのか?」

「実は俺がいる場所を決めたのは俺じゃねえ、猫どもが決めたのさ、
 だからおまえがどこがいいったって決めるのはおまえじゃない」

「そうなのか………好きに動きたければ住民として過ごすべきか」

「どっちでもいいし、決めるのは最終的にあいつらだ」

「どちらにしても、たまにここに顔を出したいな」

「ふぅん、手土産でも持ってきてくれんのかよ」

「そうだな、何か見付けたら」

「そしたら俺も適当に料理でも振舞ってやろう、その日の釣果に寄るけどな」

「……………オレはここで暮らせば良いんじゃないか?!
 毎日雪の手料理食べ放題!」

「おまえなあ………もっと自主性を持てよ、
 やりがいのあるコト見付けるとか、手に職を持つとか、おまえの人生だろう」

「やっぱり暗黒術で生計を立てるか………?」

「そうそ、おまえが使うなら頭ってより体だよな」

「活かせるならばそれも良いかも知れない」

「そうだ、俺達の知ってる奴、他にもここに来てるみたいだぜ」

「ああ! ここに来る途中でルインに会った。元気そうだった」

「もう会ってたか……、あと”あの”魔女は?」

「あの………? あ、冥界のカベイリアのことか?」

「そ、どこだったかな、確か森で魔術をやってるぞ」

「知らなかった、彼女もなのか……折りをみて訪ねるかな。
 ………他には? 誰かいるか?」

「それぐらいだな、もしかしたら俺が知らないけど
 おまえが知ってる奴ってのはいるかも知れないけど。
 気になるんだったら猫やそこらにいるヤツに聞いてみろよ」

「もし誰かに会えたら……良いな」

「…………この世界にいるんだったらさ、
 いつまでいるか分かんねえけど、ここでも仲間を作ったらいいんじゃねえか?
 暇だったら歩き回ってみるんだな」

「うん…………良い考えだな、そうしたい。
 ……ありがとう、雪」


−−

その後――

「lukaと似た女の子に会ったんだ」(ライオン・ローズねえさんのこと)
と嬉々として話す1号に
「へえーーーーそりゃ良かったじゃねえか」
と不機嫌気味になる雪さんというオチでいかがなものかと










REM - ! - pre




余談(反転)

・アケローンの河や次元の狭間など、夢が広がりますね……
・シーツリー君達ではなくポセイドンが”この”世の理を決めている説もありだと思います
・雪さんは釣りつつ貢がれつつ時々指南というまったりライフかと思われますよ
・流派鎖術やってます、へっぽこ弟子でゴメンナサイ、師匠っ


blogからhtmlに移す時に思いついたので、おまけ



「さっきのタイヤキ、うまかった……」

「おう」

「仕事を思いついた、タイヤキ屋だ!」

「ふーん、悪くねえじゃねえか」

「ここで釣って、釣れたて新鮮なやつを焼いて売る」

「……場所が悪いな、ここは人通りが少ない、儲からないぞ」

「そうなのか……、人が多くて売れそうな所……
 そうだ、ルインのいた町は賑わっていた」

「星都か、あそこはいいな、競売場があるから店を構えなくても
 やっていけるし、手軽に始めるにはいいかも知れねえ」

「うん、タイヤキはここに釣りに来るか、雪から仕入れる、
 そしたらここにいつも通える」

「俺は漁師じゃねえぞ、鎖術の師匠だ、仕事があるんだ」

「副業で! 弟子が来ない時は釣りをして過ごしているんだろう?」

「まぁ……な」

「売り上げは分ける、雪の必要なものがあれば買ってくる、どうだ?」

「おまえって時々積極的になるよな……いいぜ、考えといてやる、
 ただし他にも食ってく方法を色々考えてみろよ」

「ああ、あちこち歩き回っていたらまた何か思いつくかも知れないし、
 そしたら知らせに来るよ」

「わざわざ報告しなくたっていいんだぞ……ま、楽しみにしておこうか」