☆ベガと雪のプロテイン

「1、2、3、4、…………9、10」

「……………」

「1、2、3、4、…………9、10」

「……………」

「……………」

「……………」

「1、2、3、4、…………9、10、
 ………………終わりか?」

「そうだな、今はここまでにしておこう」

「相変わらずよくやるなー、いくら体がしっかりしているからって
 やり過ぎだろう……トータル何セットだよ!」

「ハハ、よく数えていたな。大丈夫だ、運動と休息は必ず交互にしているし、
 毎回体の反応を見ながら運動量を考えているよ」

「趣味ったってさ、どうしてそこまで?」

「単純に体を動かす心地良さもあるが……
 昔の習慣も影響しているかも知れないな」

「昔……っていうと、若い頃か? それとも宇宙飛行士時代?」

「後者かな、あの頃は宇宙空間に滞在する事が多かった、
 どうしても体力を消耗し体力が減っていきやすい、
 だから地上でも宇宙でも日々の運動は欠かさなかった」

「そうだよなあ……」

「フ……だから趣味と実益を兼ねていたというわけだ。
 今だって楽しみながら続けているし、
 コンディションを整えるために役立っているぞ」

「いつもトレーニングの後に飲んでるその白いヤツ、プロテインだよな?」

「ああ、いかにも」

「ふーん、どんなの飲んでるんだよ、一口味見……」

「………………」

「うええええっ、まずい、なんだこれは」

「そんなに口に合わないか」

「合うも合わないも、ひでえ、口に入れていいってレベルじゃねえ、
 紙粘土を水に溶かしたみたいだ」

「……食べた事があるのか? 紙粘土」

「ねえけど! はぁ……ったく、よく今まで飲み続けていたもんだな、
 パッケージはこれか、見せてみろ…………うん……ああ……なるほどな、
 地球製の粗悪品か、わざわざ我慢して飲むこたねえだろ、
 あああーっ、チクショウ、胃からムカムカ上がってきやがる」

「私は味は気にしていなかったが……効率を優先させて
 一番タンパク質含有量の多いものを選んだだけなんだ」

「味だのなんだのは置いといてか」

「ああ、月でドラゴンとして暮らしていたせいかな、
 味覚に関してかなり許容範囲が広がった」

「味はともかく食べること?」

「そうだ、知ってのとおりあの環境では選ぶ余地は少ないし、
 料理というものが出来なかったからな」

「人間じゃなくなっちまってたもんなあ……
 でも、生きることは諦めていなかったか……、
 あーあ、強いよあんたは、俺も見習いたいモンだぜ」

「今はお互い人間に戻っているんだ、人間らしく生きれば良い」

「だったら! 人間らしく選べるもんは選べよ!
 少なくともこれは俺の知っているプロテインの味じゃねえ!
 もっと良いやつがあるから紹介してやる、さ、行くぞ」

「今からか?」

「こういうのは思った時にやるのがいいんだよ、タイミングって大事だろ」



   §



「……で、わざわざエデンまで来たわけか」

「いいだろ、色々買って揃えたんだから」

「随分バリエーションが多いな……
 バニラ、チョコレート、ストロベリー、メロン、アズキ……
 こっちはクリアタイプか、スポーツドリンクみたいだな、
 ふむ、総じて甘そうだ」

「一応甘くないものあるぜ、味付け無しの、俺は苦手だけど。
 ま、とにかく試しに飲んでみろ、どれにする?」

「適当に雪が選んでくれ」

「……これにするか、俺も飲もう。
 グラスに水を注いで、プロテインのキューブを放り込んでかき混ぜて……
 っと、出来た」

「あっという間だな、私の飲んでいるものは溶かすのに一苦労なんだ」

「これは手間が掛からないぜ」

「どれ、味は…………旨いな、あの独特なにおいが無い。
 思っていたより甘さが控えめだし、とても口当たりが良い」

「だろ? 味も良いけど本題はこっちだぜ、成分表を見てみろよ」

「! 今まで飲んでいた物よりアミノ酸のスコアが高いのか、
 栄養素の種類も多いし、この味で不思議なものだ……」

「元々帝国軍用に作られたものが人気が出て、
 一般にも流通するようになったからな」

「帝国軍ということは……エデンの科学研究所が関わっているのか?」

「ご名答、ちなみにこれがその名残」

「カスタード風味…………んん? もしかしてお兄さんか?」

「そう、開発に携わってくれて……
 俺が軍に入った頃、既存のヤツがどうしても飲み慣れなくて相談したんだ。
 元々体重が増えにくくて今より細くってさ、
 仕事をして行く上で体を作りたかったんだよ。
 試作しながら味を見たり、いくつかリクエストしたり、
 兄さんも開発中に好きな味で作っていたから、
 商品化する時に残してくれって頼んだんだ」

「味も質も良いわけだ、お兄さんが地球にいた頃に開発してくれたら、
 私ももっと早く恩恵に与れたのだろうな」

「それは無理かも知れねえ……、
 兄さんは基本的に食べることとか味だとか全然興味が無いから、
 そういうところは勿体無いって思うんだよなあ……
 とまぁ、この話は置いといて。
 どうだ、こういう選択肢は?
 気に入んなきゃ俺が飲むから好きにしていいぜ、
 今までの地球製だっておまえは困ってないみたいだし」

「いや、折角だから活用させてもらおう。
 単価は上がるが効果を考えれば妥当だ」

「ヘヘ……、費用は秘美研で稼ぐ! 遠方への買出しも運動!」

「これを機会にトレーニングの見直しをしてみるよ」







   ☆   ☆   ☆







☆ベガとlukaのストロベリーマフィン

「おはよう、ベガ」

「やあ、おはようluka」

 食堂にて。朝食ののったトレーを手に、lukaはベガの前に座る。

「これからか?」

「ベガはもう食べ終わってるみたいだね」

「ああ、朝の筋トレも済ませてきた」

「毎日続けて凄いわ、遠征に行く日も休みの日も変わりなくだもの」

「習慣になっているからな」

「私もちょっと運動に興味があるな……」

「ほぅ、どう鍛えたい? lukaは持久力を付けるのが向いているかも知れないぞ」

「持久力は困ってないから、力かな。シェイプアップも出来たら良いな。
 でも、甘いもの好きなんだよね、今日の朝食もこんなだし」

 トレーの上にはストロベリーマフィンとドーナツにホットミルク。

「そういうことならタンパク質を摂るのがいいが、
 ケーキや甘いものを食べてもいいんだ。
 大事なのはバランスよく食べることと運動。
 糖分や脂肪を摂取すると、まずは体に脂肪が付く、
 それを有酸素運動と筋トレによって筋肉に変えて行く。
 そうすれば筋力も増える」

「それって、運動が足りないとただ脂肪が付くだけになっちゃう?」

「その可能性はあるだろう」

「うーん、それはシビアね……」

「脂肪も持久力やホルモンの面で大事なものだが、
 あまり付けたくないという気持ちは分かる。
 かと言って好きなものを制限してはストレスになる……」

「そうそう!」

「なら、プロテインやアミノ酸を今の食生活に加えるのはどうだ?
 肉や食べ物からタンパク質を摂ろうとすると、脂肪が増える上に
 水分が多く効率が良くない。向いていると思うぞ」

「プロテインは飲んだがことがあるけど、
 あのざらざらどろどろした食感と豆っぽいにおいが苦手……」

「ソイタイプだったのかも知れないな、
 動物性を選べばにおいはだいぶ違うし、飲みやすい物もあるぞ」

 ベガは食べながら待っていろ、と席を立つとグラスを手に戻ってきた。

「今作ったプロテインだ、飲んで味を見てみるといい」

「あれ? いつも飲んでいるのって白くて濁っていたよね。
 透明だし、さらさらして水みたい。変えたの?」

「ああ、最近教えてもらったものだ、飲みやすく栄養価も高い」

 ベガはプロテインのパッケージをlukaの前に差し出す。

「これ、帝国製の……もしかしてベガに教えたのって……」

「……帝国の力は使いたくない、か。
 しかし、利用できるものは利用するというのも一つの生き方だ」

「クスッ、そこまで深刻に運動したいわけじゃないよ。
 それに帝国製なんて言ったら今更だよ、
 銃だって食べ物だって服だって、今まで散々使っているもの」

「そうか……」

「フフ、味を見てから考えるわ。いただきます」


イラスト:すてさん(pixiv id : 60385









   ☆   ☆   ☆







☆ベガとナナのドラゴンテイル

「いつも精が出るね、ベガ」

「こんにちは、后妃」

「わわ、その呼び方、恥ずかしいよっ……いつもみたいに普通に呼んで」

「フフ……何か用か、ナナ?」

「うん、あのね……教えて欲しい事があるんだ」

「何を知りたい?」

「ドラゴンテイル、僕も出来るようになりたいんだ。
 ………………ベガ、どうしたの、変な顔して?」

「いや、少々意外だったものだから……」

「僕は普段神格がメインだから意外かも知れないね、
 全体攻撃の技を覚えたいんだよ、神格系だと今は覚えられるものが無いんだ」

「ふむ……なら例えば、スネイクはどうだ? 覚えやすく運用もしやすいだろう」

「スネイクはもう習得しているから大丈夫、それに……うーん、
 もっと威力が欲しいかな、一撃で襲ってきた相手を撃退できるくらいに」

「スネイカーが聞いたら泣きそうな発言だな」

「アハハ、僕が全然練術を鍛えていないだけだよ、
 ドラゴンテイルはあの巨大な尻尾を振り回す威力が、
 竜じゃなくても出せるじゃない」

「確かに、尻尾が必要かというと無くても……人間に戻った今でも発動できるな」

「ね、だから僕もやれば出来るかなって思って。
 尻尾が無い今はどうやって発動しているの?」

「気合で……というのはあまりにも抽象的だな。
 竜の時と基本は同じだ、勢いを付けて尻尾を振り回すイメージをする、
 その動きのまま持っている武器を投げつける様な勢いで振り、敵を薙ぎ倒す」

「素手の場合は?」

「拳か脚だな、はたしてナナに向いているかな……」

「足腰と腕を鍛えればいいよね」

「それは役立つな、加えて体幹も鍛えたいところだ。ん、ナナ?!
 そのバーベルは重いぞ、無理をしては体を痛める……」

「よい……しょっと」

「……驚いたな、意外に力がある」

「色々あって結構鍛えているからね、サバイバルも出来るんだよ」

「それは頼もしい」

「ほら、腕だってこんな感じ」

「ほぅ……普段隠れていたがなかなかに……」

「そこでっ!!! 何をっ!!! しているんだあああああああ!!!!」

「あ、ジスロフ♪」

「おまえ、ナナのことを無理矢理……」

「え、え? 誤解しないでジスロフ、ちょっと腕っ節を見せていただけだよ」

「ナナ、他人の前で肌を見せるなんて何を考えているんだ!?
 ダメだダメだ、絶対にダメだ、許さない!」

「…………ジスロフの過保護」

「えっ……」

「誰かと話そうとするといつも怒ってばっかりで、
 もっとみんなと仲良くしたいのに、あんまり行動を制限されるのは嫌だな」

「ナナっ……」

「でも、心配したり嫉妬してくれるのは嬉しいよ」

「ナナァっ、もがっ!」

「はい、そこまで。ごめんなさい、お騒がせしちゃって」

「いいのか、口を塞いだままで?」

「いつものことだから気にしないで」



   §



「ドラゴンというジョブの壁があるんじゃないか?」

「あ、それなら気合でなんとかなるって、ベガが」

「全身筋肉と一緒に考えてはだめだ、ナナ」

「ジスロフ、言って良いことと悪いことがあるよ」

「私が思うに、二人で一緒にトレーニングをすれば
 お互い心配が無いんじゃないか?」

「ナナと一緒に……それは良いな!」

「そうだよ、一緒にやったら楽しいよ。
 続けたら体が引き締まって、ベガみたいに力が出せるようになるよ」

「俺は腕力は困っていないんだが……ん、待てよ、
 ナナも鍛えてあんな体に……?」

「うん、いずれは♪」

「……やっぱりダメだ、却下!」

「えー、なんで、今一緒にやろうって言ったばかりなのに」

「ナナは今のままが良いんだ! 変わって欲しくないっ!!」

「鍛えたらその分皆の役に立てるようになるよ、ジスロフの力にもなれるよ」

「ナナの細く瑞々しい手足が、柔らかな肌が、
 失われる事に俺は耐えられない!! 今のままでいてくれ、ナナァ!!!」

「……ベガ先生、個人授業でお願いします」

「ナナが隣の彼を説得して了承を得られたら、いつでも歓迎しよう」

「うん、よろしくお願いします!」










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