相手の名前を呼ぼうとした瞬間、少し恥ずかしそうに抱き寄せられ、聞いた事のない優しい声で「ずっと一緒にいたい」と言われて、何故かはわからないが涙が止まらなくなる1雪
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ぶにゃさんの診断↑を書かせていただきました
◇
『どこにいるの』
『行かないで』
真っ暗闇の中、一人ぼっちの子供が泣いていた。
癖のある銀の髪、左眼は眼帯で隠されていた。
少年はかつての雪の姿だった。
「雪……雪………」
呼びかけて揺り起こす手を取った。
「大丈夫か?」
温かな手に縋るように強く握る……それはやけに重く違和感があった。
慌てて意識を覚醒させる。
見慣れたテーピングが目に飛び込み、顔を見るまでもなく1号だと分かった。
雪は気まずさに手を離して、首を起こす。
どうやら宿の部屋で椅子に座ったまま眠りに落ちていたらしい。
「どうしたんだ?」
「どうもしねえよ」
「泣いてるぞ」
言われて目元に指を当てると濡れていた。なんてことだ。
「雪、さっき寝言を言ってたぞ」
「え……なんて?」
「『母さん』って言ってた」
「………………忘れろ」
今日はエデンの商店街に買い出しに来て、たまたま実験器具の専門店の前を通りがかった。
沢山のガラス器具を目にして、恐らくそれが引き金になってしまったのだろう。
こんな時に傍にいるのは兄で、優しく起こして慰めてくれるのも兄の手だったのに。
なんで今はこいつなんだ……
雪は心中でそっと溜息をつく。
「雪の母さんになってやろうか?」
「はぁっ?!」
「さみしいんだろう?」
「別に。っつーか、なれるわけねーだろ! バカじゃねえの」
「じゃあ父さんになってやろうか」
「まだ生きてるだろ!」
「うーん……オレは乱造の爺さんみたいに背が高くないし、
髪の色も違うし、若いし……」
1号は真剣な様子で首を傾げているが、雪はもっと不可解だった。
「なんだっておまえはわけのわからないことばかり並べ立てるんだ……」
不意に1号が距離を詰めてきて顔を上げた。
頬がかすかに赤く染まって見えて、気のせいだろうか、光の加減だろうかと考えいている内にさらに距離は縮まる。
「いち……」
1号の胸に顔が埋まり、雪はその名を呼ぶことが出来なかった。
頭の後ろで腕が組まれ、抱き寄せられる。
「オレは雪とずっと一緒にいたい」
鼓動が、体温が、感情が。
騒がしくなり胸と頭の中が埋め尽くされていく。
やがて目頭が熱くなり、ほとんど堪えることが出来ずにあっさりと、まぶたは乾かぬうちにまた濡れた。
どうしてあんな夢を見た。
どうしてこういう時に限って1号がいるんだ。
おかげでちっとも気が保てない。
普段はろくに表情が無いくせに、なんでそんなに優しく声をかけるんだ。
それとも、そんなふうに受け止めてしまうのは感傷のせいなのか。
「バカだな、おまえは」
いつまで生きていられるか、いつまで一緒にいるかも分からないのに軽く言いやがって。
「雪、どうしてまた泣いてるんだ?」
「泣いてねえよ、笑ってるんだ」
可笑しくて嬉しくて、雪は1号の胸に額をあてたまま、鼻をすすり続けた。
もう夢は見たくない。