某所。ホテルにて。
シャワーを済ませてベッドへ移動して、先に動いたのはベガだった。さり気なく雪に近付いて、顔に触れる。
いつもならそのまま受け入れる雪だったが、その日は不服そうに睨み付けた。
「アンタにされるばっかりになるのは嫌だ」
「どうした?」
ベガは優しく問う。
しかし雪は答えない。続きを促そうと問いかける。
「おまえがリードしてくれてもいいんだぞ」
「ケッ、よく言うぜ……口じゃ優しく言っても、
大体最後にゃアンタのペースになってんじゃねえか。
イイ性格してるよな」
「おまえは責められるのが好きだと思っていたんだが……違ったか?」
ベガは悪びれることはなく、ただその顔に微笑みをたたえていた。
「嫌いじゃねえ、アンタにいっぱいされんのは嬉しい……
けど、自分でも動いてつかまえておかないと、時々不安になる……」
ベガは雪の思いを探ろうと思案し、言葉を探す。
「過去に何か辛い思いでもしたか? そうだな……捨てられたとか」
「そんなことあるもんか!!」
「そうか、なら良かった」
「…………」
雪はまた黙ってしまう。
「今日は気分が乗らないのなら、やめにしても……」
少し困ってベガが呟くと、食いかかるように雪は言い返す。
「何しにこんなとこまで来たと思ってんだ!
しないで帰るなんてありえねえだろ」
「やれやれ……思春期か?」
「うるせえ、年寄りが!」
「ハハ、確かにおまえより遥か昔に生まれているな。
好きなだけ甘えていいんだぞ」
「そうじゃねえ!!」
「なら、好きなだけ付き合おう」
「ああ……」
ようやく雪は納得してみせた。
「私は簡単にいなくなりはしないよ。
おまえのことをとても気に入っているし、いくらでも付き合うつもりだ。
おまえが飽きるまで、望むのならそれ以上でも」
「………それって、付き合うとか、一緒になるとか?」
「ああ」
ベガの頷きに、雪は複雑な顔をして溜め息をついた。
「嬉しい話だな……でも、違う」
「そうなのだろうな」
「アンタのことが気に入らないってわけじゃねえ……好きだよ。
でも、アンタだけじゃなく、誰ともそんなふうになることは考えてない」
雪は口には出さないが、唯一人の兄を除いて、それ以外の誰ともと。
「らしくないな、そんなに済まなさそうな顔をして」
「なるだろ? こんな顔にも!」
「元々わかっていることさ。
ならば今まで通り相応の付き合いを。
私は色々あって長く生きて、こうしておまえとひと時を過ごせるだけで
十分だからな」
「………分かったよ。甘えてやるよ」
罪滅ぼしのように、雪はベガの愛撫を受け入れる。
◇
数時間の後。
気怠くも心地好い疲労と眠気に二人は覆われていた。
「なぁ、今度は1号にしようぜ」
「突然で話が見えないが」
つい先程まで二人きりで睦み合っていたのだ。雪の口にした名前にベガは困惑せざるを得なかった。しかし、雪にとってそうであるように、ベガにとっても1号は大切な存在だった。
「二人で1号のことを可愛がってやるんだよ、ここに連れてきて。
そん時は、俺には手を出すなよ」
ベガは事を始める前の雪の言葉を思い出し、言わんとしていることに察しがついた。受け身ばかりは嫌だという気分の波が続いているらしい。
「1号にも負けたのか?」
「『も』ってなんだ! 負けてねえよ!」
「私が1号をかわいがる分には問題ないが。
雪はそれでいいのか?」
「それがいい」
「最近、何か溜まっていたのか?」
「知るか!」
「分かった、おまえの望みに付き合おう。
しかし1号は大人しくしているかどうか……」
「好きに暴れないようにしっかり押さえとけ。
あいつは気持ちよけりゃなんだっていいんだから」
「ざっくりとしているな」
「あいつはそんなもんだ」
かくして、当の1号不在で次の計画が立てられたが、二人とも1号が話に乗らないはずはないと確信していた。
◇ ◇ ◇
先日ベガと雪が利用したホテルの、もう少し広い別の部屋にて。
「三人で来るのは久しぶりだな」
実際、1号はとても簡単に二人についてきた。
「そうだな、1号。まずは風呂だ」
1号は雪に促されるままに浴室に入り、椅子に座らされる。
雪がバスタブの蛇口を捻り、騒がしく落ちる水音と湯気に包まれる。
「頭洗ってやるよ」
「では私は体を洗ってやろう」
雪は背後に回り、後から来たベガは1号の前に膝をつき、それぞれシャンプーとボディーソープを手に取る。
一方的に洗われだした1号は「二人とも今日はどうしたんだ?」と不思議そうにしていたが、「ありがとう」と答えた後はおとなしく身を任せた。
「うん……頭、気持ち良い。腕も……」
温かな湯気のこもった浴室で、泡で滑りながらマッサージされているようで1号にはとても快適な時間だった。
そのうちに、ベガの手が1号の腹部からその下へ降りていく。体の中央でまだ柔らかかったそれを泡をまとわせた手で包み込み、ゆるゆると滑らせる。
「ベガ……洗ってくれているのか? それとも刺激してるのか?」
ベガはただ「フフ」と笑う。
答えた後はまた下を向いてしまうベガを見下ろすと、雪にシャンプーで耳を擦られ、1号は首を竦ませた。
程なくしてベガの手の中のものはしっかりと固くなり、そんな頃合いで、雪がシャワーを1号の全身に浴びせかけた。
「一丁上がりっと!」
「きれいになったな」
雪とベガに、1号は前髪をかき上げて答えた。
「ああ……さっぱりした。雪もありがとう。
けど、ベガ…………いつまで触ってるんだ?」
風呂から出ないのかと気にする1号に、ベガは「ここでするつもりだ」と告げた。
それでいいかとベガに眼差しで問われ、1号は頷きを返し、椅子から降りた。
床に座り、腰を浮かすとベガの指先が後ろに潜り込み、浅く深く内側に触れて拡げていく。
1号は自ら足を開き、期待の色をその顔に浮かべた。
「ベガはもう、出来る状態になってるな。いつでもいい……」
「なら、遠慮なく」
ベガは1号の脚を抱えて、中へと入り込む。
それだけで1号の表情は期待から喜色へと変わった。
「ベガ……!」
嬉しくてしょうがない様子で、1号はベガへ手を伸ばそうとした。
ところが二人の間に雪が割って入り、阻まれる。
「今日はおまえは何もしなくていいんだよ!」
「でも……」
1号は雪とベガの顔を交互にうかがう。
「雪のたっての希望でな」
「ベガ! 余計なことは言うなっ!」
「まぁ、そういうことだ。身を任せてくれないか?」
「オレは……二人がそうしたいなら、それでいい」
「聞き分けがいいじゃねえか、1号」
雪はベガの動きに合わせて前後に揺れる1号のものを掴まえた。
1号の横に座り、片手を動かしながら唇を寄せる。
開かれた口を塞ぎ、舌先を固く尖らせ、1号のそれの下に滑り込ませる。やわらかな唇を食み、口の中と外と、二人で思うままに擦り合わせる。
1号は壁に背をもたれて、ベガに揺さぶられ、雪にとらわれ続ける。
声は漏れ出る前に雪に飲み込まれた。
三者それぞれが感覚に集中して時を忘れそうになった頃、ベガが気付いて雪に声をかけた。
「雪、夢中になるのはいいが、私にも1号の顔を見せてくれないか?」
雪は我に返って1号から離れた。
「1号……」
優しく愛おしげに呼び掛け、ベガは身を乗り出して1号とキスをする。
雪は赤くなった顔で二人の交わりを見つめていた。
動きに伴う水音が浴室の中で響く。
「ふっ………う、ん…………」
1号のくぐもった声に悩ましげな吐息が時折混じる。
ベガが口づけを解くと、1号はうっとりと目を細めていた。
見とれる雪の肩にベガの腕が回される。
近付くベガをガードするように、雪は自分の顔の前で手のひらを広げた。
「今日は俺にはするなって言っただろう……」
声が強くないことに気づき、ベガは少し強引に迫る。
「キスくらいならいいだろう?」
「なんだよ、言い出したのは俺だなんて言っといて
アンタも十分乗り気じゃねえか……」
「まぁな」
微笑むベガに、雪は俯いて手をどけた。すぐに顎を持ち上げられ、ベガの唇と舌を受け入れ、長いキスに耽った。
1号は壁に背を預け、緩やかに腰を使うベガと、動きを止めてしまっては思い出したように刺激を加えてくる雪の手と、目の前で思いと体を寄せ合う二人の姿と、全てに快さを与えられ続けた。
「はぁっ…………俺もやりてえな……」
ベガとのキスで惚けた雪は、1号を見つめながらほろりと呟く。
「すっげー気持ち良さそうな顔してるよな、おまえ……
そんな顔見せられたら…………」
「雪も一緒に入れるか?」
「は……?」
ベガの言葉に雪は途端に怪訝な顔になった。
「無理だろ」
「そうか? 1号は受け入れるのはすっかり慣れているから、
試してみれば行けるかもしれないぞ」
「アンタ……たまにさらっと怖いこと言うよな……ちょっと引くぜ。
俺はいい、うっかり血ぃ見たくねえし」
「う……ん? ベガ、それは……気持ちいいのが二倍になるのか?」
「どうだろうな、試してみないことにはなんとも」
「俺はやらないからな!」
「そうか……」
少し残念そうに笑い、ベガはぐっと深く1号の中に自身を沈ませた。
ゆったりと穿たれている間は余裕のある1号だったが、ベガが動きを激しくしだすと息が上がり、口は閉まらなくなる。
雪は手での愛撫だけに集中して、ベガの動きに合わせて、勢いとペースを上げていった。
1号は二人からの刺激に徐々に堪えられなくなっていく。
快楽を逃がそうと体を捻ろうとするが、ベガと雪は許さない。責める動きで1号をその場に貼り付け、刺激を叩きつけ、その身を貪る。
脚は揺らされるまま、腕は中途半端に上がって空を掴む。
ベガが1号の腰を抱え直して突き入れると、背筋を稲妻のような感覚が駆け上がった。とうとう堪えかねて首を振り乱してしまう。
「はっ…………は……あぁっ…………ベガ、もう…………
ぁ、あああああああああああ!!!」
叫ぶように声を上げ、全身を強ばらせてガクガクと震わせた。
ベガは動きを止めて、満足げに微笑みながら1号の落ち着くのを待つ。穏やかに、刺激にならないよう加減をしながら1号の体を撫でた。
雪は手にしていたものから精が吐き出されていないのを見て、からかうように笑う。
「なんだ、後ろだけでいったのか。こっちは要らなかったか?」
まだ動けない1号だったが、必死に首を横に振った。
「そっちも……触ってくれないと、物足りない……」
「フーン、欲張りな奴だなあ!」
雪は愉快そうに、再び手に力を込める。中程を何度か握り、根元から先へと往復させ、鈴口から溢れる粘液を指に絡ませながら丹念に1号の要求に応える。
1号の頬は赤みが増し、表情は蕩けるように弛んでいく。
荒い息に混じって甘い声が漏れる。
そんな快楽に揺蕩う1号の瞳は、ベガが動きを再開したことによって見開かれた。
「私は一度いきたいんだが」
「アンタはまだだったか。いいぜ、ベガ。思いっきりやってやれよ」
ベガは1号の背に腕を回し、自分の方へ引き寄せた。膝の上に抱え上げ、その体重を物ともせずに揺さぶり、中を鋭く抉る。
「あ、はっ…………ベガ、はやい……」
「つらいか?」
「ううん、いいっ……」
殊更強い声を1号が上げると、ベガの埋めたものがぐっと締め付けられる。
中の熱さに興奮が高まり、食いつくような刺激に負けじと1号に腰を叩きつけた。
「っ………!!」
ベガが動きを止め、息を詰める。
その後、長く吐き出される吐息を聞きながら、精を受けた1号も断続的に先端から白濁をこぼした。
「ベガ……よかった……」
1号は脱力して、ベガの肩にもたれ掛かる。
「私も、良い思いをさせてもらったよ」
ベガは1号の頬に唇を落とした。
「1号、俺もいるだろう!?」
「ああ、雪も…………ふっ、……ぁ、ぁ…………っクシュン!!」
ベガは心配げに1号と額を合わせる。
「湯冷めしたか?」
「いや、体はまだ熱いんだが……うーん……」
「温まろうぜ」
困った表情の1号に、雪は腕を引いてベガから離れさせる。
そのまま二人で湯船に浸かると、雪は1号の背に覆い被さり、ぴたりと体をくっつけた。
「なあ、1号。俺のこと好きだよな?」
1号の耳に唇を触れさせて雪は囁く。
「ああ」
「俺とするの好きだよな?」
「大好きだ」
躊躇い一つ無い1号の言葉に、雪ははにかむ。
「じゃあ、くれてやるぜ!」
雪は1号の肩を押し、腰を浮かせると後ろから抱いた。
体が再び押し広げられる感覚に、1号は途切れ途切れに言葉にならない声をあげる。
「入りやすいな……ベガに抱かれたばかりだから、か」
1号はベガとは異なる雪の形や動きの癖をその身で感じとり、受け止める。
背にのし掛かられ、浴槽の底に両手をついた。腰を振られ、その動きが深くなっていくと1号は焦って雪を振り返った。
「雪、待ってくれ! 風呂の湯が、口に……」
「なんだよ、体が冷めなくていいだろう?」
顔を上げようとするが、雪が動く度に顎は水面に潜り、湯が跳ねて顔を濡らす。怪生物の強い体で様々なことに耐えられる1号だが、水には苦手意識が残る。雪との交わりは続けたいが、逃げたい気持ちも募り、次第に緊張が高まってしまう。
雪は分かっていながら、1号がどうにか堪えられるラインを探るように責めていた。
愉しげな雪と戸惑う1号。二人を眺めていたベガは体を洗い流し、自分も湯船に入り1号の目の前に体を滑り込ませた。
「1号、私に掴まっているといい」
「甘いな、ベガは……」
雪の機嫌は良く、ベガの行動は止められることはなかった。
両腕を取って自らの首に絡ませてやると、1号は素直にベガにしがみついた。
「おまえはかわいいな」
ベガは淡いピンクの髪を何度も撫でる。
1号は応えるように、ベガの顔に頭を押し付け、動物のように擦り付ける。
湯の中で愛撫に耽り一時の沈黙が訪れると、体の交わりから生じる音の代わりに、不規則に波立つ高く短い水音が室内を満たす。
不意に、ベガの肩に鈍い痛みが走った。その箇所へ視線を向けると、1号が目を瞑って歯を立てていた。瞼には力が籠もり、脇腹が微かに震えていた。
雪は抽送をひどくゆっくりとしたものに変えていて、1号は焦れったさのあまり、目の前のベガに縋った。
「雪、もう少し1号を楽にさせてやったらどうだ。今にもまいってしまいそうだ」
「別にいいだろ。俺なりにこいつのことは大事にしてるんだぜ」
雪は尚もじっくりと腰を引き、やわらかな刺激に1号は細く息を吐く。
「いいんだ、ベガ……こうしてると、雪のことをすごく感じられるし………
雪には好きにしていてほしい……」
ベガは柔和な表情で笑う。
「フ……おまえがそれでいいならいいんだが」
語りかけ、1号の唇を指先で撫でると薄く開かれた。紅く濡れた舌が覗き、ベガが顔を寄せれば待っていたように重ねられる。
1号の舌はベガのそれを追い、時に雪から与えられる刺激で戦慄いた。
熱くも静かな交わりだった。ここまで繋がって、普段ならとうに立ち昇っている汗と精のにおいが湯に流されてあまり感じられない。たっぷりと張られた湯は体中を温かく包み、押せば逃げ、引けば抵抗するのが快さとなる。
暫くすると、1号は熱心にキスをしながら、ベガの立ち上がりかけたものに手を添えた。
「ベガの……舐めたい……そこに座ってくれないか」
ねだられて、ベガは浴槽の縁に腰を下ろす。
1号はベガの膝を割り、目当てのものに舌を這わす。先端を口に含み、舌の上を滑らせて唾液をまぶし、付根まで唇を近付けていく。口内の熱と包み込まれる感触に、ベガはそこに血が集まるのを感じた。
「随分積極的だな」
「好きだから……」
熱のこもった瞳で見上げ、その後は幾度も瞼を伏せながら1号は行為に集中した。弾力のある舌を押し付け、頬の内側と、上顎の裏と、指と、すべてを触れさせる。始めは押されれば中で形を変えていたものは、やがて1号の喉奥を突いてなお、含みきれなくなった。
そうしていながら、1号は腰を動かしていた。意識してか、無意識か、ベガと雪には分からなかったが、1号は焦れて待つだけでいることを止めた。
ベガの前から頭を離さず、胸から脚を使って今や雪よりも動きを大きくしている。
前後に、左右に揺らし、あるいは円を描くように。雪を味わいながら、懸命に雪に奉仕する。
雪はそれに合わせていた。交わりには充足感を得られていた。1号の体を好きに揺さぶって、ベガの楽しみの邪魔をする気はなかった。
1号の表情、息遣い、纏う雰囲気、全てが艶めかしさを増していく。
ベガへの口戯で顔は再び水面に近付き、顔に湯が跳ねても口の中に入ってこようとも、もはや1号は気にする素振りを見せなくなっていた。
「すっかり夢中になっちまって……」
「これはなかなか……凄い光景だな」
雪とベガの目には、1号の姿はたまらなく健気に映った。快楽に貪欲でありながら、与え、共有することを息をするように自然にやってのける。惹き込まれ、愛おしさが募る。
責めていた筈が、いつの間にか1号のペースに飲まれている気さえしてくる。
一番欲に素直になれるのは1号だった。
「油断したら搾り取られそうだな」
「俺たち二人相手に1号一人だろ、そんなまさか……」
1号の背を撫でるベガに雪は軽く笑って否定をしたが、どうにもイヤな予感が拭えなかった。
後に二人は思い知ることになる。
◇
広いベッドの上。1号は目を輝かせて『次』を雪に求めていた。
「もういい、随分やっただろう…………半日……いや一日寝る」
雪は疲労困憊の上、不貞腐れ気味だった。楽しかったが、消耗も激しくかなり気怠い。
1号は雪のことは諦めて、ベガの顔を覗き込む。
ベガはペース配分と元からの体力でまだ余裕を残していたが――
「そろそろ時間だ」
1号は時計を見て納得した。
「分かった、出ないとな。……名残惜しいけど、また三人で来たい」
「ああ、また来ような」
二人の笑顔を余所に、雪は無言を通す。
「雪……?」
わざわざ声をかけてくる1号に雪は舌打ちをした。
「1号、腹が空かないか?」
ベガは1号の意識を雪から反らしてやろうと話題を変える。
「そうだな、どこかに寄って食事をして帰ろう」
雪はちらりと二人を振り返る。
「そう言われてみると空いてる気もするけど…………
やっぱり動きたくねー……」
ぐったりと脱力した雪の体とベッドの間に腕を差し込んで、1号は抱え起こそうとする。
「動けないならおぶっていってやるぞ」
「いい! 自分で歩ける!」
雪は1号の手を払い、ムキになって跳ね起きる。二人のやり取りを見届け、ベガはベッドから降りた。
「先にシャワーを使うぞ。雪も体を流してから出たいだろう? 急がなくていいから、支度をしてくれ」
ベガは浴室へ姿を消し、無言で見送っていた雪は1号に抱きつかれ、勢いに負けてベッドに倒れ込んだ。
「何すんだよっ! 折角起きたってのに」
「雪は何が食べたい?」
「は……?」
「飯のことだ。これから行くだろう?」
「ああ………特に……ねえな。どこでもいいぜ。
おまえとベガで決めろよ、ついてってやるから」
「そうか……」
嬉しそうな声で答え、1号は雪の胸に頭をのせて寝転がる。
一瞬、雪はそれを許そうと思ったが、すぐに体を捻って1号の下から抜け出した。
「重いだろ! おまえが下になれ!」
1号を仰向けにさせると、雪はその胸と腹の上に体を転がせて丸くなった。肩と背と脇腹から伝わる人肌の温もりが心地よかった。
安堵する雪の額に1号の手が置かれ、生え際から指を差し込まれ、ゆっくりと髪が掻き回される。
「元気だよな……おまえ」
「……オレはいつも通りだと思うが」
「だって、まだできるししたいんだろ?
体力バカだよ、おまえも、ベガもな……」
「うーん……体力があるのはいいことなんだな」
雪が片手を頭上の方へ移動させると、1号が空いた手で掴まえた。指を組んでぎゅっと握られる。
「上機嫌じゃねえか」
1号の顔を見なくとも、雰囲気と声から十分伝わってきていた。
「機嫌か……………
うん、雪とベガと過ごして、本当に嬉しくて、
ずっとこのままでいたいと思って……
こういう気持ちが幸せというんだと思う」
雪は瞼を閉じてひっそりと笑んだ。
身を寄せ合って安らいでいるともう二度と目を開けられなくなりそうだったが、シャワーの音が止んで、雪は身を起こすことが出来た。
「1号、おまえも体を洗ってこいよ」
腕を取って、1号の重い体を引き起こす。
「雪は?」
「俺は最後でいい。ほら、とっとといってこい!」
1号は頷いてすぐに雪の言うことを聞いた。
入れ替わりで浴室から出てきたベガは、タオルで髪を拭いながら雪の隣に座った。
「満足できたか?」
「ああ……気が済むまで出来たし…………ベガ、ありがとな」
ベガと目を合わさず、照れくさそうに雪は呟いた。
「なに、私も存分に楽しんだ。お礼に次は私と1号で雪を…」
「殺されてえのかっ!」
「随分とムキになるな」
「フン……何が礼だ、アンタがやりたいだけだろう?」
ベガは悪戯っぽく笑いかける。
「そんな気分になったらいつでも言うといい」
「いつになるかわかんねえけど、気が向いたらな」
「何を話してるんだ?」
突然加わってきた声に二人が振り向くと、1号が脱衣所から顔を覗かせていた。
「なんでもねえよっ」
雪はいつもの強気な眼差しで答えた。
REM - ! - pre