ある晩、月のキャンプにて。
なんとはなしに思い出したのだろう、そういえば今日は十五夜だ、との雪の呟きに1号はすぐに反応した。
月見の日でここは月だ、ならば地球を見たいと。
残念ながら地球で満月の夜は、月から地球は見えない、影になっているのだ。
木の枝で焚き火に照らされた地面に図を描きながら、雪は1号に説明してやる。
理解と納得をした1号が次に求めたのは、日を待って夜空に浮かぶ地球を眺めること。
そう言うだろうと思っていたと、雪は天文学講座の続きをする。
現在の月は地球と火星の間の惑星軌道上を公転している、そのため月から満月状の円い地球を見ることは不可能だ。
見えるのは近くにあって三日月型から、満月型に近いが満たずに遠く小さく見える地球だと。
それでもいい、見たいと言う1号に雪は笑って、そんな頃合いにまたここにいれば付き合おうと軽い約束をした。
地球から満月を見るのであれば――雪は自身のメタモルフォーゼに関するとある過日の出来事を思い出して苦い顔をしてしまいそうなところだが、逆に月から見るならばきっと問題はない。
こうして地球が最も近付く日でも何事もなく過ごしていられるのだから。
そう思えば心は軽かった。
後日のいつしか、二人は再び月面上にいた。
記憶の湖に用があってのことだったが、おそらく偶然にもタイミングが合った。
水妖精の苗、不純物0の水、小惑星鳥の尾、砂糖、材料は十分にある。
夕飯作りと一緒に粉を捏ねて丸めてじっくり茹でて、沢山の団子を用意した。
出来上がったばかりのそれを一つ、1号が味見をすれば出来は上々だったらしく随分と機嫌良さげにしていた。
日暮れ前に移動を開始する。
重なり合うテント樹の葉の間から地球が見える場所を探し歩いたが、なかなか切れ間が見付からない。
隙間無く天を覆う葉は、日中は殺人光線とも言うべき容赦の無い強烈な陽光を遮ってくれるとてもありがたい存在なのだが、今ばかりは少しだけ邪魔だった。
歩き続けるうちにとうとう樹林の端まで至ってしまった。
流石にここまで来れば地球の姿が見える。
三日月のように欠けた形だが大きく、雲も風もなく見晴らしはとても良い。
しかし一部が葉陰に隠れている。
もう少しと1号が進もうとするのを、雪は腕を引いて止めた。
ここまでが限界だと、林から出る間際で雪は立ち止まる。
この先は昼の灼熱に反して夜は凍てつく極寒となる。
大気中の毒素も濃くなっていく。
長時間そこにいられないことは1号も身をもって知っていた。
辺りを見回し、適当な岩と倒木を見付けるとそこに座って、雪も後に続いた。
包を広げて、月見団子ならぬ地球見団子をつまみながら空を仰ぐ。
今夜の地球は青灰だ、次に見る時は違う色に見えるかもしれない。
そんな雪の話に耳を傾け、1号は相槌を打つ。
二人は地球の姿がすべて隠れるまで夜空を見上げ続けた。
REM - !