「今日の夕飯はオレが作る」
1号にそう言われて、ならば任せるかと別室で日用品の手入れをしながら待つことしばらく。
ちょうどよく腹の減った頃合いに「雪、できたぞ」と呼ばれて移動すると、食卓には大きなせいろがのっていた。
椅子に座り蓋を開けると中には湯気を立てた四つの白い丸いものが。
「なんだ?
饅頭……蒸しパン?」
「食べてみてくれ」
促され、一つを手に取りかぶりつく。
「熱っ……あ、これ……」
細かく刻んだ野菜のシャキシャキとした歯応えと、あふれ出る肉汁の旨味。
「肉まんだったか!
随分久しぶりだな」
久々もいいところで、この無人島に来てから食べるのは初めてだ。
1号も自分の分を皿に取って食べ始めた。
「味、思い出さないか?」
「思い出すって……?」
思案しながらもう一口を食べる。
確かに覚えがあるような。
「あー…………そうか、あれか!
ピアーの肉まん!」
1号はしっかりと頷いてみせる。
「レシピもないのによく作れたな。
それにこの島で採れる素材でこの味を出せたのか。
やるな、1号」
「記憶を頼りに頑張った」
「そっか、うまいぜ。
本家の味に結構近いぞ」
「よかった……」
「おまえ、これ好きだったもんな。
恋しくなったか?」
「それもあるし……雪が最近くしゃみをしてたから。
温まっていいと思って」
「あんなの、大したことねえって。
ここんとこちょっと冷えてただけだ。
でも……ありがとな」
雪でも降り出しそうな冷たい風の吹く日にはぴったりで、温かさと優しい味が体に沁みる。
たねからほのかに香るスパイスは漢方薬にも使われるもので、そんなところにも1号の思いが込められている気がした。
「本当は冷えには天印スープがいいと思ったんだが、材料が手に入らなくてな」
「材料?」
「ここにはナナがいないだろ、だから難しかった」
「あー……」
記憶の糸を辿り納得する。
「雪もこれ、好きだったよな?」
1号は手にした肉まんを軽く持ち上げる。
「そうだな、地球の食いもんにしちゃ旨い方だ。
懐かしいな」
「ピアーは料理上手だった」
「確かに。
ま、おまえの腕も悪くねえよ」
「そうか……」
二人して肉まんを頬張り、添えられたスープを口に運び、なんとなく会話が途切れる。
1号は満足げな表情だ。
料理の出来が良かったから機嫌がいいのか?
旨いもんを食って幸せになってるってことか?
「オレは」
「ん?」
手元の皿に視線を落とし黙々と食べていたら1号の声が降りかかり、顔を上げる。
「雪がおいしいと言ってくれて、嬉しい」
目が合った。
そらせなかった。
1号の中では数分前の話題が続いていた。
「……じゃあ、また作れよなっ。
うまかったらうまいって言ってやる!」
「ああ」
わざと語気を強めて言えば1号は淡々と応える。
いつも通りの空気にほっとする。
「あとな、おまえもあったかくしてろよ。
気温が下がる日はいつまでも上を脱いでないで服を着ろ。
いくら頑丈だってたまには風邪引くこともあるだろう?」
「いや、いい」
「だから、いいじゃなくって」
「動きにくくなるし……大丈夫だ」
「相変わらずだな、着たがらないの」
1号の妙な癖が可笑しくて、笑いながら食後の――今日の夕飯に合う茶と甘味は何が良いか、考えを巡らせ始めた。
参考資料(RSより天印スープ)
REM - !