適当に胡坐をかいて座った雪の前に1号が膝をつき、身を乗り出す。1号の唇が何度か頬に触れた後、遠慮がちに唇が重ねられた。
 そのまましばらくじっとしていたが、一向に動きが無い。
 雪はつい先ほどのことを思い返す。自分とこういうことをしたいと言ってきたのは1号だ。なのにこの状態から先へ進まないのはどういうことだと。おとなしく1号の様子を窺ってするに任せていたが、肩を押していったん身を離す。
「おまさぁ……やる気あんのか?」
「ある」
 目は嘘を言っていないように見える。
「ん……もしかしてキスとかエッチの仕方を知らないのか」
「エッチはわかる、キスは今してた」
「はぁ……そっか」
 1号のその返答で状況を察して拍子抜けする。よく知りもしないで勢い任せじゃないかと。
「違うのか?」
「いや、まぁ違ってはいない。けど違うやり方もあるさ」
「教えて欲しい」
 勢いだけじゃなく人任せかよ……と心の中で独りごちる。そうはいっても自分だって既に話に乗っているのだからと、想定外ながらレクチャーをすることにした。
「キスするとき、ちょっと口をひらけ。あと、俺の舌を噛むなよ」
 1号はきょとんとしながらも口を開けてみせる。
「こんな感じか?」
「そんなに開けなくていい、これぐらいだ」
 自分で口の形を作って見せる。それを真似した1号に口づける。唇同士を触れ合わせ、軽く何度か食む。そのまま1号の唇を舐めて濡らし、あわせたまま滑らせてその感触を味わう。これだけでも気持ちが良い。1号は行為を受け入れておとなしくしている。それならばと、舌を1号の口内へ差し入れて唇の内側をなぞる。しばらくそうしていたら1号の舌がおずおずと触れてきたのですかさずとらえて絡ませる。少し緊張しているのか体をかたくしていた、『噛むな』と言ったのを律儀に守ろうとしているのだろうか。
 一度様子を見ようと唇を解放すると1号の頬に薄く朱がさしていた。
「雪……エロいな。オレはよくわからないけれど、多分こういうのがエッチなんだと思う」
「そういうキスだからな」
「もう少ししてみたい」
「ああ……」
 再び唇を合わせる、今度は最初から深く1号からも舌が伸ばされ口内へ侵入してくる。口内と、舌と、唇と、触れ合ううちに次第に口は開き、周り中が唾液にまみれていった。1号は夢中になっている様子でなかなか終わらない。雪もその感触に次第に酔って、1号の髪や背中を撫でながら続けた。それを真似るかのように、1号の腕が雪の肩に置かれ頭を抱え込まれた。
 ふと、腹の辺りで何か動くのを感じた。1号の片腕が彼の下腹部へ滑り込み、服の上からさすっている。もう反応しているんだなと、微笑ましさすら感じながら口づけを交わし続けた。
 雪の知る限りでもかなり長い時間をかけたキスからようやく解放される。
「めずらしいな……おまえが赤くなるなんて」
「……心臓がひどくドキドキしてる、戦っている時や危険を感じた時でもないのに興奮してるみたいだ……」
「嫌な感じか?」
「いいや……むしろうれしい」
 1号の手が伸ばされ、雪の下腹部をとらえる。
「雪のもかたくなってる……触ったら気持ち良いか?」
「まぁな、そういうもんだからな」
「そうか……」
 呟いて1号は雪のズボンに手を掛ける。それに合わせて雪は上着を脱ぎ捨てたが1号は手間取っているようだった。他人の服を脱がすなんて慣れていないんだろう。
「まだるっこしい、俺は自分でやるからおまえも全部脱いじまえ」
 こくりと頷き1号は言われたとおりにした。



 露になった雪の性器に指を這わせ、さも興味深いといった顔で1号は間近に寄って見る。
「なんだよ、めずらしいもんでもねぇだろ」
「ああ……でも人のを見ることが無いから。オレのとだいたい同じだな」
「そうみたいだな……」
 違うとしたら今の反応の度合いくらいか……と1号を見ながらぼんやりと思う。
「雪のも気持ちよくしたい」
 そう言って1号は手の中に握りこみ、動かしだす。
「っ……もう少し軽くしろ」
「痛いのか?」
「いや、それほどでもねぇけど加減ってものがだな」
 1号は手の力を緩めて、根元から先まで動かしたり握ったりし続ける。
「そう……それぐらいでちょうど良い」
「……よかった」
 雪にとって自らする時のように確実に一番好みの動きではなかったが、それなりの刺激を受けて快感が増していく。
「大きくなってきた……さっきまでと全然違う」
「それは……おまえがそういうことをしてるからだろう」
 確かに、雪の反応の度合いはもう十分だった。
「透明なのが出てきた」
 1号は雪の鈴口に手のひらをあて、先走りを塗り広げるようにその辺りをゆるゆるとなでる。
「雪の、ぬるぬるして気持ち良いな……」
 雪にとっても濡れてくると気持ちの良さは格段に増すものだった。そろそろ1号にも触れてやるかと思ったところ、胸を押されて仰向けに倒される。首を起こすと視界に入ったものは雪の性器を舐める1号の姿だった。
「1号っ……」
 少し驚き、言葉に困った。その間にも1号の舌はあちこちを滑っていった。根元を手で支えながら先の方まで舐めていったところでやっと顔を上げる。
「なんだかこのぬめってるのがへんな味がする……しょっぱい……いや、苦い?」
 雪は肘を付いて上体を少しだけ起こす。
「おまえ、どこでそういうのを覚えたんだ。キスの仕方も知らなかったくせに」
「舐めることか? 知らない……ただ、こうしたら良いんじゃないかと思った。さっき雪の教えてくれたキスをして、舌で触れるのも触れられるのもすごく気持ちが良かったから……」
「嘘は言わないよな、おまえってエロい奴なのかも」
「そうなのか?」
「ああ、今のお前の姿はけっこういやらしいぜ」
 1号は少し嬉しそうな表情をした。ほめられたような気分なのだろう。
 雪から見ると時々1号は幼く見える。姿かたちがそういうわけではなく、中身がだ。仲間たちと接する普段の振る舞いは少々ズレたところはあったとしても確たる自己を持った大人だ。ただ生い立ちと知識の偏りからくる無知故の幼さ、あどけなさが時々顔を見せる。こんな大人びた行為をしている時にすらそう感じてしまうなど、不思議でおかしかった。
 1号の舌はなおも滑り、先走りの滲み出る先端に到達した。小さな穴を舌の先でつついた後、その口に性器を含んだ。浅く含んだだけだったが、濡れた唇で挟まれ、舌が蠢き、何よりその光景に雪は興奮する。
「何かおかしいか?」
 雪の気配に気付いたのか、ふと口を離して1号が問う。
「おかしくない、それでいい。もっと深くまで含んでいいぜ」
「そうすると雪は気持ちいのか?」
「ああ……」
 自分の反応をうかがう1号に嬉しいような妙な気持ちになる。
 雪の言葉に意を得て、1号はより深くまで飲み込んでいく。粘膜に包まれて、舌が這う。気持ちが良くないわけがない。
「うっ……けほっ……」
 むせて1号は慌てて口を離す。喉に触れたのだろうか。
「無理すんな」
「いや、深い方がオレも気持ちが良いから……なんだか今すごくエッチなことをしている気がする」
「気のせいじゃないぜ」
 ニヤッと笑って雪は体を起こす。
「1号、今度はお前のを触ってやるから位置を変われよ」
 雪は1号を押し倒して今までと逆の体勢をとった。1号を見下ろして思わず笑う。
「おまえのからもいーっぱい出てるぜ」
 言いながら溢れていたそれを手にとって根元まで塗り広げる。
「今までこんなに出てきたことが無い……それは……そういうものなのか?」
 1号は少し不安げな表情だった。体験が無いならば仕方が無いだろう、それに先ほど雪が溢れさせていた量よりはるかに多い。
「ああ、出るに越したことはない、こういう時にはな。性的に興奮してるってことだ」
「興奮……」
 意図を飲み込めない様子の1号に言葉を変える。
「おまえの体がやりたいって言ってるんだ、エッチを」
 雪はゆるく握りゆっくりと手を上下させる。1号からはなおも溢れて乾かない。
「雪……気持ち良い……」
「俺もうれしいぜ、おまえがこんなに濡れてるの」
「雪が、うれしい……」
 言葉を反復して1号はまた嬉しそうな顔を見せた。雪の手を濡らすぬるみは有り余る程だったのでさらに下に、さらに後ろへと指を滑らせる。濡れた指先で辺りをやわやわと刺激する。
「雪、なんだかムズムズする」
 1号の言葉に答えず、周囲の刺激を続ける。指先で探り、撫でて、押して、しばらくそれに時間を掛けた。気が向いた……と思ったけれどそうではなかった。雪の性器を咥えて気持ち良いと言う、いやらしい姿を見て犯したくなった。
「あ……う……」
 雪が指先を入れたところで1号が声をあげる。
「いや……びっくりしたけど大丈夫だ」
「続けるぞ」
 1号の頷くのを確認してゆっくりと指を進めて深くまで差し入れる。内側を指先や節で刺激しながら浅く深くと動かす。引き抜いて先走りを掬ってまた指を入れる。
「雪っ!」
 声と同時にびくりと身をかたくして1号が顔を上げる。
「今……凄い感じがした」
「こうか?」
 今さっきと同じ部分を指先で何度か押してみる。
「……、っ……」
 その度に1号は身を捩じらせる。
「気持ち良いんだろ?」
「あ、ああ……」
 雪は再び指を濡らして先ほどの場所を刺激する、そうしながらもう1本指を滑り込ませる。
「雪、こんな……」
「もっとしてやるから膝を立てろ」
 1号はすんなりと言うことを聞いた。立てられた膝を開かせながら更に胸の方へ押し付け、腰を浮かせる。1号の反応に気をよくして激しくしてしまわないようにと気にしながら、雪は指で1号を穿った。性器にあまり手を触れていなかったにもかかわらず、1号は興奮を高めていた。頬を上気させ、息も上がってきている。
「雪っ、雪! 待ってくれ、指を抜いてくれ!」
 切羽詰ったような声に指を引き抜くと、1号は起き上がって雪に襲い掛からんばかりに飛びついてきた。
「指は……もういい。指じゃなくてもっと大きいのを入れて欲しい」
 1号はかがんで雪の大きさを保ったままの性器に指を絡める。色気を含んだ瞳で雪を見上げる。
「雪のこれを入れて欲しい」
「奇遇だな、俺もそうしたいって思ってたところだぜ。おまえがそう望むんだったらもう一度舐めてたっぷり濡らせよ、そうしたら入れてやる」
 躊躇いなく1号は口に含んで、まるで必死な様子で舌を這わせた。すぐに周り中が唾液で濡らされた。
「いいぜ……」
 1号の肩を押して離させる。こちらをむいて膝をつき腰を上げた格好でいた、ちょうど良いと思い背後に回る。
「そのままの姿勢でいろよ……」
 首だけを振り返らせて1号が頷いた。
 侵入を試みる。最初の抵抗を過ぎると中ほどまでが埋まった。そこで止まると1号が息を吐き出す。
「……太いんだな、もっと軽く入るのかと思ってた。もう全部入ってるのか?」
「まだだ、いいのか? 続けて」
「ああ、……っ……」
「無理しなくていいぜ」
「いや、いい……」
 雪は更に腰を押し進めて全てを埋めた。
「これで全部だ」
「本当か?」
「手、貸してみろよ」
 背の上に差し出された1号の片手をとり、繋がっている部分に触れさせる。
「本当だ……すごいな。いっぱいできつくて苦しいけど、うれしい……」
「なっ……」
 どこからそんな台詞が出てくるのかと雪は面食らう。だが、もうここまで来ているのだからと気持ちの余裕を取り戻そうと試みる。
「1号、これからどうすればいいかわかるか?」
「動くんだと思う、よくわからないけど……」
「そうさ、加減して動くから適当に合わせるとか、無理そうだったら言えよ」



 1号の中をゆっくりと何度か動いて、締め付けられる感触に加えて、そこを出入りする自分の姿がはっきりと目に映り視覚的にも煽られる。だが1号はまだ緊張で体をかたくしていた、その姿を見て雪は声を掛ける。
「1号、体をこっちに起こせるか?」
 腕を回して引き寄せると1号は自分でも体を起こそうとしてきた。
「俺の膝に座るようにしろよ……っと、おまえ重いんだったな、体重全部掛けんなよ、少し自分で支えてろ」
 繋がったままで、膝の上に1号がこちらに背を向けて座る形になった。腕を回して胴を引き寄せると雪の胸と密着する。ピンクの髪が鼻をくすぐる。しばらく1号を抱きしめて胸や腹部をなでながら体を軽く揺すった。1号は手を所在なさげに動かした後、雪の腰や腕に触れさせた。穏やかさが雪には心地良かった。
 そうしていたのはどれくらいの間だったか、1号が体をひねって振り返り、顔を近づけてきたので雪は顎を上げて口づけた。さっきと同じ深いキスを。そしてさっきと同じ長いキスを。腰を浅く揺らすのは止めないまま、片腕で1号の体を支え、もう一方は手探りで彼の性器を探り当てる。そっと触れて、時折握りながら形に沿って撫でた。目を瞑って体の感覚を味わった。1号の体の強張りが徐々に解けていくように感じられた。
「雪……全部雪にしてもらってるみたいだ」
 口づけを解いて1号が呟く。
「やってる方も楽しいから別にいいさ、第一おまえ、やり方よく知らねえんだろ」
「確かにこういうのも知らない。雪は何でも知ってるんだな」
「こんなの序の口だ、他にもたくさんあるんだぜ」
「……またドキドキするのがひどくなってきた……、ところで雪はこのままだと動きにくいんじゃないか?」
「一丁前に気ぃ使うんだな」
「さっきの格好の方がよかったんじゃないか? 雪の好きにしていい、気持ちよくなって欲しい……」
「おまえがそういんだったら……俺はもっと動けた方がいいけどな」
「わかった」
 そう言って1号は上体を前に倒して再び手をついた。その動きに合わせて雪も腰を上げた。
「手加減してやってたのに」
「いらない」
 短い一言の返答のすぐ後に、追って付け加えてきた。
「オレはもう大丈夫だから、雪のしたいようにしてくれ」
「遠慮はしないからな」
 1号の腰を手で掴み、雪は体重を掛けた。



 遠慮はしないと言ったものの、雪は1号の様子を見ながら動いていた。自らの興奮を高めるべく動きを大きくする、1号は音を上げず興奮状態を保っている、もう少しいけるかと踏み込む。繰り返すうちに雪は興奮が高まって抑えがきかなくなっていった。突き上げる動きがだんだん速まる。自分の体温が一気に上昇するのがわかる。早く1号の中に出したい、ぶちまけたい。
 1号の上半身が突然崩れて顔を伏せた。どうしたかと気になり一旦動きを止める。
「イッたか?」
「いく……? 突然、目の前が白くなった……一瞬だったけど何がどうなったのかわからなかった」
 様子をうかがったが射精はしていなかった。
「後ろでイッたのか」
 張り詰めた1号の性器を手におさめると根本から先へ向かっての蠕動が感じられた。
「悪かったな、こっちを放っておいて。こっちでもイカせてやる」
「いかせるって、どういうことだ?」
「さっき白くなったって言ったろ、あれだ。射精するとあんな感じになる。おまえのはすぐにでも出そうだ」
「雪はオレの体の状態がわかるのか……」
「ああ、ここがぐいぐい動いて吐き出したがってる」
 雪は腰を浅く揺すりながら1号を少し強く握り、射精に導くために扱く。
「俺の手の中に出せよ、1号」
「雪……の……っ……」
 1号は下腹部を震わせて果てた、雪の手のひらに温かい精が放たれた。指の間から少し零れ出たが、まだその多くが残る。どうしたものかと思案して、雪はそれを自らの胸に擦り付けた。強い匂いが立ち上り、雪の性欲はそれに誘われた。
「俺もそろそろイキそうなんだ、もう少し付き合ってもらうぞ」
 再び突き上げる動きを大きくする。1号の体はそれに反応を見せ、その背筋を見ているだけでも劣情を掻き立てられる。更に動きを早めればたいしてもたずに果てが見えた。
「1号っ……中に出すぞ……」
 最後に深く突き上げて放った。まとまった量を吐き出した後、何度か残りが込み上げたのでその度に腰を揺すってもう出なくなるまで出し切った。一気に脱力して1号の背に覆いかぶさるように倒れた。
「雪……出たのか?」
「ん? ……ああ、気持ち良く出したさ」
 1号から退いて繋がったままだった体を引き抜き、隣に身を投げ出して寝転ぶ。体がすっと冷えて、大分汗をかいていたことに気づく。
「これで終わりなのか?」
 1号がこちらに向きを変えて寝そべる。
「まぁ、それでいいんじゃないか。出すところまで行ったし。どうやってどう終わるかなんて人それぞれだ。気が済めばいいんだ」
「そうか……オレはまた雪とこういうことがしたい」
「今からじゃないよな? 俺はもう満足してる」
「今じゃなくていい」
 また俺と――1号の言葉に気分が良くなる。反面、どうして自分なのかと予ねてからの疑問がぶり返したが1号の次の言葉であられもない方向へ飛ばされた。
「そういえば、エッチってどうして動くんだ? 入れればいいんじゃないんだな」
 こういう質問をこの場でする辺りがズレていると思う。でももう慣れた。
「種族によっちゃ入れてすぐ終わるのもあるさ。ただ人間の場合だと動いてオスを興奮させないと射精しにくいってとこか、いや、俺だってよく知らねぇけど。本来は種付けだからそれが目的だしな。とはいっても動いたらおまえも気持ち良かっただろ、そっちが目的ってことも多いな」
「オレは入れたことが無いからわからない……」
「なんだよ、そんなに人の顔見て……やってみたいのか?」
「今度は雪に入れてみたい」
「おまえ……恥ずかしい奴だな」
 1号は何かを呟こうとしたのか口を開いたがその動きは緩慢で、見る間に目がとろんとしていった。
「眠そうだな」
「雪……?」
「わかった、わかったから無理してないで寝ろ」
 安心したような表情で1号は眠りに落ちた。
 目の前の存在の意識が落ちれば一人の時間が訪れる。
 1号に求められているのは解る。自分だって1号のことを嫌いじゃない、むしろ……
 その先が続けられない。とにかく今はこれでいいんじゃないかと考えてみる。心と体が満たされる。それはしばらく続くかもしれないし、一時かもしれない。いずれにしても、求められなければこんな、体を重ねるなんてことにはならなかった……
 そこまで考えたところで雪の意識も途切れ眠りに捕われた。










REM - ! - pre