「ピアー、大変だ! 発情期が来た」

「は? どこの猫の話じゃ」

「僕だよ」

「へ?」

「だからピアー……」

「ちょ、待て。なんでおれを見詰めるんじゃ!」

「ピアーと交」

「待て! それ以上言うな!
 だいたい発情期って、今まで起きんかったじゃろうが」

「うん…多分、こっちに来てから初めて。
 人間になったから周期が長くなったのかも知れない」

「ホントなのか……」

「うん…」

「そーだとしても、相手が違うじゃろ」

「なんで?」

「おまえはオスだ。だったら相手はメスじゃねえのけ」

「ピアーがいいんだけど駄目なの?」

「おれは男だ、おまえの相手にはなれん」

「駄目…? だったら他の相手を探さないといけないのかな」

「他って?」

「メスの猫?」

「いや! それはヤバイじゃろう、だめだだめだ!」

「じゃぁ人間の女の子?」

「うー…まぁそうなると……いや待てよ、もし身篭ったら…」

「やっぱり人間で?」

「誰か好いてる人間の女がおるんか?」

「ピアーの妹達は好きだよ。でもそれは考えてなかった」

「……やっぱりイカン! そんな無責任なことはさせられん!」

「じゃぁピアーが相手をしてくれる?」

「いや、それは……はぁ、どうしたらええんかのう…」

「男だから?」

「なんていうか、えーと、ルインの今の目的は
 子供が欲しいってことなのか?」

「いっぱい交尾して子供を作りたい」

「あああ……おまえなんちゅーことを…」

「何か変なことを言った?」

「……しゃーないな、ルインは猫じゃもんな」

「猫だって誰でもいいわけじゃないよ、好きな相手としたいんだよ」

「う……」

「ピアー、顔が赤い」

「うるせー、誰のせいじゃ!
 …まぁなんとなくだけど、ルインの言いたいことはわかってきた。
 じゃがのう、やっぱりおれとじゃ子供はできん」

「男の人でも子供を生むことはあるよね?」

「それは滅多にあることじゃねえ」

「すごく稀にでもあるなら、それでいい」

「おれとルインの子供なぁ……万が一生まれたとしても
 チビが一人増えるようなもんか?」

「そうだよ!」

「ハハ…なんだか夢物語みたいに思えてきたぞ。
 したら他の誰に迷惑を掛けるわけでもねーか…」

「ピアー、お願い……」

「またそういう目で見るか…んん、こら腹に乗ってくんな、
 そんなにぐいぐい押し付けんなっ…!!」

「このままだと僕、つらくて…
 ピアーの体に爪を立てて離さなくなっちゃいそう」

「怖えな、猫ってやつは」

「ピアー…」

「はぁ…………すればおさまるんか? 気ぃ済むんか?」

「多分、大丈夫だと思う」

「でもなぁ……おれに出来るかどうかわからん」

「どういうこと?」

「あ、重要なことを聞かねーとな。
 ルインは子供を……どうしたいんじゃ? 産みたいのか?」

「うん、ピアーの子供が欲しい、産みたい!」

「ちゃんとわかっとんのか?
 産みたいってことはおまえはおれに……」

「わかってるよ。ピアーが僕に種付けするんだよね」

「…………」

「ピアー、そんなに下向いて…具合が悪いの?」

「やー……色々と衝撃的でなー…ルインの考えることは
 おまえん中じゃ自然で当然のことなのかもしれんが、
 言葉に出されるとかなりくるものがあるんじゃ…」

「大丈夫だよ、僕ちゃんと育てるよ、大事にするよ」

「ハハ……おまえは…良い子じゃな…」

「わ、ピアー! 頭撫でてもらうの大好き、嬉しいな」

「ああ、もっと撫でてやるぞ…」

「嬉しい、今すぐにでもピアーと子供を作りたい…」

「観念するしかないかのう……おまえのために」

「してくれるの?」

「上手く行かなかった時はあきらめるんじゃぞ」

「うん、僕がんばるよ!」




















「なんじゃその白い布は?」

「これはね、目隠しだよ」

「え、わ、おれか? いきなり巻くな」

「僕に任せて」





















「今なんした! もしかして舐めたんか!」

「痛くは無いよね? 手でする方がいい?」

「…………」

「どっち?」

「わからん」





















「起ったね」

「そうみたいじゃな…」

「これでできるね」

「…………」

「乗るよ、頭を後ろにぶつけないように注意してて」

「うん…? なんか軟らけぇもんが胸に当たって……なんじゃ?」

「パッドだよ、おっぱいは無いけど
 少しでも気分を味わってもらえるかと思って」

「…………」

「え……どうして目隠し取っちゃうの?」

「いらん、胸の詰め物もいらん。
 おまえわざわざブラジャーまで用意してたんか」

「僕のわがままを聞いてもらってるから、
 ピアーの好きなものに近づけたかったんだ」

「ばかじゃなルインは……こんなことばっかりして、
 おまえの準備はしてないんじゃろう」

「準備って何? 僕がすることってピアーを起たせる以外にあるの?」

「危なっかしくて任せておけん。ちょっと待っとれ」

「ピアー! どこへいくの」

「そこの鞄を取るだけじゃ……おおあった、これでなんとか使えるか」

「何を持ってきたの?」

「これじゃ」

「傷薬……何に使うの?」







「言ったじゃろう、いいって。
 一度言ったからには隠すことも誤魔化すこともいらん。
 変な小細工なんかせんと、さっきまでの勢いのまんま
 ぶつかってくればええ」





















「こら、無理に動こうとするな。痛いんじゃろう」

「でも、せっかく入ったのに…」

「泣きそうになって……そんな顔をされちゃおれは嬉しくない、
 しぼんじまうぞ」

「あ…うん、大丈夫! ぼくは平気だよ!」

「違うって、無理をするなって言っとるんじゃ。
 焦らんでええから、少しこのまま、動かずにいろ」

「ピアー……キスしていい?」

「好きにすればええ…」





















 ◇











「ピアー、今日もお願い」

「おまえ…終わったんじゃねーのか?」

「発情期はしばらく続くんだよ、知らなかった?」

「しばらくって、まさか毎日するんか!」

「一日中ずっとでもいいくらいだよ」

「……おれはいま後悔しとる」

「ぼくはピアーのおかげですごく助かったし、
 ピアーのことが大好きだから幸せだよ」

「おまえの気持ちは嬉しいけど……もう惑わされん!」

「ピアー……そんなに嫌なの?」

「おまえの発情期はそのうち終わるんじゃろう?」

「そのはずだね…」

  はぁ……付き合ってられん

「え、ピアーなんて?」

  人間は仕組みが違うんじゃ……

「ごめん、声が小さくて聞こえにくい」

「取り返しはつかんのかのう……おれが甘かったか…」



★EDN










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