エデンの遺跡で追い詰めたシキと雪の逃げた先、彼らを追ってlukaと共に眩い光の中へ飛び込んだことまでは覚えている。
 気が付いた時には雪の姿しか見当たらず、見知らぬ土地で強烈な太陽光線に肌を焼かれて、どうにか林の中へ移動して難を逃れた。
 雪を連れてきたはいいが……
 焼けた大地の上で倒れていた時から気絶している。息はまだある。
 これを好機とアーク銃を向けて引き金に指を掛けた。
 動かない雪。
 動かない自分の指。
 …………………………
 オレは雪を殺さなかった。今この時はだ。
 luka達とはぐれた上に自分がどこにいるのかも分からない。手元にあるのは殺すための武器と僅かばかりの食料ぐらいだ。まずはここから目的の場所に辿り着き、lukaと合流しなければならない。その為には戦力は一人でも多い方が良い、たとえ敵対している雪だとしてもだ。一人になるリスクと比べればずっとマシだ。
 目を閉じたままの雪を見下ろしながら、方針をまとめて自分を納得させて銃を下ろした。
 そこまでが理性の限界だった。
 雪には積年の恨みがある。怒り、憎しみ、害意、殺意……永年に渡り蓄積されたそれらの思いが彼を目の前にして吹き出し、オレは感情にまかせて雪を犯した。

     †

 痛てぇ……体もココロもズタボロだ……もう指の一本だって動かせねえ……
 隣で1号が呑気に寝息を立てていやがる…ってことは、まだ夜か。まさか一日以上は経ってねえよな?
 手も足も縛られたままだ、自由が効かない。ただ痛め付けられて横たわっているだけの役立たず、それが今の俺。
 …………クソッ
 どうして俺は気を失っていた? 何故兄さんと離れてこんなところに来てしまったんだ?!
 あれは何時間前だ……?
 1号に無理やり捩じ込まれ、激痛で意識を取り戻した。その時にはもう遅かった。手足は縛られ、服は剥がれ、いくら身体を捩ろうとしても背後から体重を掛けられて逃げようがなかった。
 屈辱と苦痛にまみれながら必死に叫んで抵抗した。無駄とは分かっていながらもな……口先だけの抵抗なんだ、それでアイツが止まるならこんな目に遭いやしねえ。
 ウッ……ヤベェ、まだ体に震えが来やがる。落ち着け、少なくとも今は何もされない。
 当然、奴は一度出したくらいじゃ終わらなかった。何度も穿たれ犯され続けた。いっそ一思いに殺せばいいだろうだなんて考えが過った。それとも殺す前にいたぶって憂さでも晴らそうってことか? なら気が済むまでは終わらねえよなあ……これが今まで俺がしてきた事への報いってヤツなのか?
 次第に疲弊して諦めに覆われて、俺は抗うことを放棄した。もう嫌だ、一刻も早く終わってくれとしか思えなくなった。少しでも楽になりたかった。
 気力の萎え切った俺に1号は今いる場所と現状を聞かせ、協力しろと言った。あれは強要、脅迫だ。俺はただ言われるままに頷き、犯されながら気を失った。
 ……ひっでえ話だ、なんて無様だ。
 あーあ……これが相手が兄さんだったらどんなに乱暴にされたってきっと俺は幸せで嬉しかったのに、激しく求められていると思えば。なんでよりにもよって1号なんだ、しかも暴力だし。ハァ……溜息が零れる。
 コイツの顔なんか見たくもねえ。一人で何処かへ逃げ出したい、寧ろおまえが一人で野垂れ死ね! なんて出来たらいいんだが、こんな目に遭っても俺の理性は働いてる。
 1号の要求……まぁ、提案てヤツは理に適っていた。俺だってこんなところでくたばるわけにゃあいかないんだよ、兄さんに会うまでは! だから要求は飲む、他に手は無い、頭じゃ分かっちゃいるんだ頭では! 1号、このままじゃ済まさねえ……
 腹立たしさも悔しさも拭い切れない恐怖感もあったが、あまりにも消耗していた。
 徐々にまともな事を考えられなくなり、再び意識が落ちた。

     †

 翌朝、隣で眠っていた雪を叩き起こした。帰還のために協力して行動すること、今日から周辺の探索を始めること、昨夜の取り交わしを確認して雪を縛っていた発砲ツルをほどいてやった。
 雪は起き上がるとやけにノロノロとした動作で服をまとい、突然口元を抑えて「ついてくんな!」と叫んで少し離れた大木の陰に駆けた。
 暫くして、雪はこちらに戻ってこようとしたが途中で倒れた。駆け寄って傍に屈むと、こちらを恨めしげに見上げて吐き捨てるように言った。
「なんだ、また俺をレイプしたくなったのか? ハッ、好きにしろ、どうせ俺は動けねえ。ただし今この状態でやられたら死ぬかもな」
 雪の状態は発熱と上げ下し。症状はどちらも重かった。昨日やり過ぎただろうか……探索に支障をきたさないよう、骨を折ったり重い怪我を負わさないようにとは思っていたのだが。そんな事になったら面倒を見る余裕が無い。
「全身火傷しかけてんだ! それをあんなに無理矢理…乱暴にしやがって!」
「炎症による発熱か……林の外の毒素も原因かも知れないな。腹はどうした、何か変な物でも食ったか?」
「いつ食うヒマがあったってんだ…………おまえのせいだよ」
「??」
「精液、俺ん中にさんざん出しまくっただろう、量が過ぎると毒になるんだ!」
「そうだったのか……」
 知らなかったとはいえ不覚だった。
「俺がこのまんまじゃ、おまえ困るんだろう?」
 そうだ。死ぬ云々は雪が大げさに言っているのかも分からないが、動けない状態なのは確かだ。
「困る、これじゃ何のために殺さなかったか分からない」
「どうせ薬はねえんだろ? 俺も手持ちが無いし」
 雪は目を瞑って少し思案すると一言だけ呟いた。
「…………水」
「水がどうした?」
「飲ませろ、あと体を拭きたい。とっとと回復させたけりゃ看病しろ!」
 敵の看病をするのもおかしな話だが、帰還のために協力を求めたし、雪がこうなった責任は自分にもある。
 雪を置いて一人で探索すると幸いすぐに水場は見付かった。落ちていた大きな木の実の殻を拾って、そこに水を汲んで、その日は雪と水場を何度も往復して過ごした。


     ◇


 雪の回復は思ったより早かった。不敵に笑いながらこう言うのだ。
「鍛え方が違うんだ、俺はそんなにヤワじゃねえ」
 数日後には普段通りに動けるようになって、二人で広大な林の中を探索した。
 見たことのない生態系、それは雪も同じようだった。エデンとも、雪の知っている地球のそれとも異なった独自の環境だった。雪は地球の人の住めなくなった捨てられた土地ではないかと推測していた。オレの知識では分かることは何もなく、ただ食い繋いで行く水と食料だけは確保できたことが幸いだった。
 日中は殺人光線のせいで林の中から出られない。夜間に出ようとすると、林の中とは比べ物にならないほど強烈に気温が下がる。過酷な環境下で思うように探索は進まず、これといった発見も無く、少しずつ気持ちが焦れていた。

 探索を終えた夜、雪に後ろ手に縛り上げられた。油断していた、隙を突かれてしまった。二の腕から指先まで念入りに縛られ、突き飛ばされ、テント樹の根本に上半身を鎖で括りつけられた。幹を背にして座る格好で、胸と腹に幾重にも鎖が巻き付けられる、身動きが取れない。更に雪はオレの左右の腿を跨いで足も封じられた。
 雪は片頬を吊り上げながらオレのズボンの前を開いた。
「フン、萎えてやがる」
「何をする気だ?!」
 雪は答えもせずに、少し体を後ろにずらすと屈んでそれを口の中に深く含んだ。驚き、思わず萎縮する。
「噛み切る気じゃないだろうな……?」
 絞り出した声は緊張で少し震えた。
「暴れんなよ、動くと歯が食い込むぞ」
 身を固くした。雪の舌が一通り這いずり回り、表面がすっかり唾液で濡らされた。実際の時間の経過は分からないが、しつこいくらいに時間を掛けてされていたように感じる。動揺と緊張が増していった。
 雪は顔を上げて唇を舐めると、ズボンと下着を脱ぎ捨てオレに覆い被さった。
 あの時の仕返しだ、酷い事をされるのだろうと身構えた。ところが……
 自分でも気付かぬ間に固く屹立していたそれが雪の腹の中に飲み込まれた。見る間にすべてが収まり、足の付け根を雪が跨いで、向かい合って座るような格好になっていた。
「なっ……」
 状況が理解できず、気が動転する。
「フッ……犯してるんだよ、おまえを」
 雪が何を言っているのか分からない、犯すなら逆だろう、オレが無理やり突っ込まれるんじゃいのか?
 オレの混乱を余所に、雪は腰を上下させて擦りたて出す。いざ深く繋がってしまえば、思考や感情はともかく快楽がそこから生まれて背筋を昇ってどんどん脳が染められていく。
「分かんねえって顔してるな。おまえがどう思おうが知ったこっちゃねえんだよ、おまえの自由を奪って俺が勝手にやる、これが犯してるってことだ。やられっぱなしなんてまっぴらご免だ。それもおまえにだなんて、許せるわけがないだろう。だから俺がやる、俺がこれで快楽を得れば、おまえが俺を抱いたってもう傷付けることはできないだろう」
 動きを止めずに雪は饒舌だった。その顔は明らかに快楽の色に染められつつあった。
「こんなことは……やめろ…」
 雪がおかしい、狂っているのかと感じた。でもその懸念は、絶え間ない快楽に押し流されて掻き消されていく。
「もうおまえとはやっちまったんだ、1回やったからには後はもう何回やったって同じだ、やるかやらないかなんだよ。おまえとやるなんざ考えてもみなかった。おまえの責任だからな!」
 雪は自分の好きなように動いていたようだが……オレもいいように煽られてしまっていた。
「フハハッ……なかなかイイぜ、おまえの体。こうして大人しくしてりゃ結構使える」
 解らない、自由は奪われているが痛みが無いどころか快楽しか与えられない。不可解で混乱し過ぎたせいか、自分が貫かれていないせいなのか、屈辱すらろくに感じない。一体これは何なんだ、今、何が起きているんだ???!!!
 思考まで快楽に染め上げられて、次第に何も考えられなくなって、やがて、昇りつめて雪の中に白濁を吐き出した。
「熱っ…………フン、勝手にやられて情けなく搾り取られるなんてイイザマだぜ。でも、まだだ。俺は満足しちゃいない」
 雪は左手の人差指と中指を口に咥え、唾液をまぶした指を背の下に回し、オレの中にぐいと埋めた。その感触に身が竦む。今度こそ自分がやられるのかと、冷たい汗が流れた。
 雪の指は始めは1本、入るだけ入り込むと中を探り、ある所を撫で、押し、そうして刺激されるうちに萎えかけた自分のモノに再び血が流れこむのを感じた。
「???」
 侵入する指が増え、2本でそこを更に刺激されると意思に反して勝手に勃ち上がる。快楽のようなものもあったが、指で抉られるショックと鬩ぎ合っていた。
「おお、復活した。さすが俺」
 雪は満足気な表情になった。
「俺はまだイってないんだよ、何度でも勃たせて俺を満足させやがれ、今のおまえの立場を思い知れ!!!」
 オレの二度目にして雪は存分に快楽を得たらしく、その果てにオレの胸に熱い精液を放った。
 雪は彼自身が数回達するまでオレの体を使って放さなかった。
 繰り返す度に、思考が停止していった。ただ、快楽しかそこになかった。オレも何度射精したか分からない。身動きの取れない不自由さはあったが、不安や恐怖や、疑念までどこかに消えてしまっていた。それどころか自由になって動きたい、雪の中を抉って、そして………雪のことを掻き抱きたい…………………
 ?!!
 自らの思いに衝撃を受けた。気の迷いかと思った。きっとこれは何かの勘違いだと……考えることを止めた。


     ◇


 今日も連日と同じように探索。生き残り、帰還するための行動。後者の方はなかなか実を結ばない。

 夜のキャンプで1号に背を抱かれた。殺気や不穏な気配は感じなかったから、俺は抵抗しなかった。
「雪……またオレを犯して欲しい……」
 耳元で囁かれてニヤリと嗤った。……落ちたな。
「フーン、自分から犯してくれねえ、よく恥ずかし気もなく……」
 振り返って見ると1号の頬は仄かに赤く染まっていた。焚き火の炎に染められたのか、既に興奮して上気しているのか。瞳も濡れて光が揺れている。
 射抜くように見詰めても口を噤んだままだ。まだ葛藤はあるのかも知れない。けれど言い出してきたということは……
「気持良かったんだろう?」
 こくりと素直に1号は頷いた。
「どこだか分かりゃしない土地で二人っきりの孤立無援、よくもこんな状況で……元気なモンだな」
 からかうように言いながら1号の両手を鎖で縛る。
「逃げたり暴れたりしないってんなら木に括りつけるのはやめてやるぜ」
「逃げない、暴れない、攻撃しない。だから自由な方がいい」
「いいだろう」

     †

 服を全て脱がされ、テント樹に寄り掛かかった。雪はオレの足元に膝をついて前の時と同じように咥えた。触れられる前から期待で既に少し硬くなっていた。
 もう恐怖も緊張も無かった。良い事、快楽が待っているのだと信じていた。
 雪の柔らかく温かな口の中に含まれ、それだけで心地良さに血が集まった。雪が自分の指を舐める。やはり前回と同じように、後ろに腕が回りこんで中を探られる。
 舐められながら中から刺激される、時折強めに口で吸われる。体を繋げなくてもこれほどの快楽があるのかと眩暈がした。
「フフ、いい感じに準備ができてきたな」
 雪は体を離し、座れと言った。その場で屈もうとすると、背を押されて膝を地面に着くことになった。背後で縛られた腕では上半身を支えることが出来ず、体がぐらついた。
「1号……」
 雪の機嫌の良さそうな声が頭上から聞こえた。背に抱きつかれ、肩に顎がのせられる。……と、熱を持った塊が体を割って入り込んできた。予期していなかった展開に慌てて振り向いた。
「え、何、なんで……クッ…」
 押し拡げられ、焼けるように熱い。雪のそれの温度なのか、痛みのせいなのか。
「何?って、おまえこそ何を言っているんだ? 犯してくれって言っただろう? おまえの言う犯すってのはこういうことじゃないのか? おまえは俺をどうやって犯してくれた?」
 今度こそ報復なのかと観念した。
「フ……安心しろ、ゆっくりじっくりやってやるから。始めは痛むだろうけど我慢しろ、じき慣れる、慣れるまで待ってやるから」
 言葉通り、雪は強引に一気に押しこむようなことはしなかった。時間を掛けてじわじわと中を広げながら押し進んできた。全てを埋めると馴染ませるように、ゆるゆると中の壁を押すような動きをした。その動きで、先ほど指で刺激されて快さを感じた場所も……やわやわと押されて徐々にもどかしくなっていった。
 体は確かに慣れつつあるようだった。やりようの問題なのだろうか。雪を犯した時はずっと痛がって泣き叫んでいた。雪に乗られた時は、あの時の雪は痛がってはいなかった……
 思い返しているとうなじに何かが触れた。柔らかく触れながら下の方へ移動し、肩や肩甲骨、それから二の腕にも何度も触れ、温かく濡れたものが背を這って、舐められているのだと分かった。
「背中に、何をしているんだ?」
「キスだよ、知らねえのか?」
 知らないわけではないが、なぜキスをする? なぜ背中に? 解らない。
 柔らかな唇。濡れて弾力がある舌。そして時々ついばまれ皮膚を吸われる。それもキスなんだろうか? 背中を雪に犯されている気分になってきた。
 そちらに気を取られていたら、今度は前を握られる。
「しっかり勃ってんじゃねえか、淫乱」
 雪の言うとおりの状態になっていた、犯されているのに何故そんなことになっているのか分からない。雪の声は相変わらず楽しげで、左手で軽く握ると扱き出した。
 やはり、だめだ。頭でどう思おうと、ここまで直接、弱い所を刺激されてはどうしても快楽が生じてしまう。擦られているうちに先走りがあふれてきた。それが雪の指に絡め取られ、先端から根本までに塗り広げられ、滑りをまとった手に包まれ刺激されると快感がいや増して堪らなくなった。
 自分でしかしたことがない事……それが他人の、雪の手でされている。なのに興奮はより強い。テンポよく扱かれ、その手は縦横に動いて様々な場所を絶妙な加減で刺激してきた。心地良さの虜になりそうになる。
 タイミングを見計らったかのように、深くその身を埋めていた雪が今度こそ前後に動き出す。
 初めは小さな幅で、やがて深いストロークで、中を様々な方向に刺激して……
 意外にも、それは苦痛ではなかった。最初に違和感はあった、けれど前への刺激と連動するような動きは、すぐに快楽へと変換された。前も後ろも、熱く、温かく、滑って、刺激を生む。
 なぜだ? どうしてだ? これが犯されているだって?!
「フフッ……慣れてきたようだな」
 雪の声が左の耳元間近で聞こえて肩を竦ませた。そのまま耳たぶの外側を舐められて、ゾクリとした。
「このままイかせてもらうぜ」
 雪は体を起こすと動きの速度を上げて、やや乱暴に抉られて、中に出された。あまりの出来事に茫然とする。
 雪は引き抜くとオレの体を仰向けに寝転がせ、足を開かせた。
「さ、次行くぞ」
 どうしていいか分からなかった、混乱で抗うことを忘れていた。すぐに再び入り込まれた。雪の精液で滑り、さっきとは違った感触と音がする。
 後ろからされている時は見えなかったが、今ははっきりと雪が自分の中に埋め込まれてくのが見えた。否応なく視覚につきつけられた。
「本当に、雪が、俺の中に……?」
「ん? さっきからそうしてたけど、どうした今更?」
 オレの体は、背後からされていた時よりは自由だった。足だって閉じることも、雪を蹴飛ばすことだって出来た筈だ。
 でも、しなかった。なぜか出来なかった。両腕は後ろに縛られたままで、もどかしかった。
 雪は今度も、硬くなったオレのモノを握って刺激しながら中を抉る。浅く良い所を何度も突き、深く深く入り込み、雪の勝手にしているはずが……やはり苦痛とは程遠かった。
 雪の責める手がまた一つ増えた。雪の口による攻撃……。
 胸、鎖骨、首筋と、唇が落とされ舌が這った。触れられる度にその場所からさざめくような感覚が広がった。首筋から徐々に上がり、顎、頬へと伝い……オレは自分の唇と重なることを期待した。それは叶わず、頬から移動して耳を軽く食まれた。擽るようについばまれる。
「なあ、1号、どんな気分だ? どう感じてる?」
 問いかけられて、犯されている、貫かれているのだと改めて思い出す。そう思うと、どう答えていいか分からかない。迷っていると雪の舌が耳孔の入り口を塞ぐように舐めた。
「気持ち良い、って思った方が楽しくなるぜ」
 雪の囁きは誘惑であり、応えたら敗北するような気がした。
 けど……前に触れる雪の手も、中を穿たれることも、濡れた舌で耳を責められることも、もはや全て快楽でしかなかった。
「雪は……気持ち良いのか?」
「当然だろう? おまえ、俺をやった時に気持ち良くなかったのかよ?」
 即答された。
 気持良かったか? 雪に入れて?
 最初にした時は、あの時は怒りに任せて興奮も昂揚もしていたが、気持よかったのか? よく覚えていない。楽しいという気持ちではなかった。雪を支配し蹂躙しているという堪らない昂りと酷く最悪な気分が入り交じっていた。
 二度目、雪に乗られた時は……過程や状況はどうあれ気持ち良かった、だからまたしたいと思って……
 そうか、無理にしなければ気持ちいいのか、本来この行為はそういうものの筈だから……
 雪が、俺として、気持ち良くなってる。
 でも犯されて? でも、こんなに穏やかで快楽しか無いのに…?
 考え切る前に、雪の動きがまた早くなってきた。切羽詰まっているんだ……
「1号、おまえの中に出していいよな? 奥の深いところで……」
 雪が熱くなって興奮しているのが分かって、異様に嬉しくなってしまい思わず口走った。
「ああっ、いい…、オレの中に…熱いのいっぱい……出して……」
 だめだ、まるで雪に犯されて喜んでいるみたいじゃないか。
「気持ち良い……雪にされていること全部……!!!」
 止まらない、どうすればいい!
 雪は満足気な表情で、とても嬉しそうで、体をガクガクと震わせながらオレの中にぶちまけた。その熱さを感じて、追いかけるようにオレも達して雪の胸を汚していた。

     †

 1号が陥落したことが手に取るように分かって、とてもイイ気分だった。事後の表情、熱く乱れた吐息、顔だけでなく肩や胸までうっすらと肌を赤く染めて艶かしい。瞳を潤ませて俺のことを見上げている。なかなかにくるものがあり、出し終えたばかりだというのにそそられる。
「雪……鎖を外して欲しい、抵抗も攻撃もしないから」
 1号はゆっくりと呟いた。
「……本当に何も企んでないんだろうな?」
「ああ、約束する」
「……」
 組み敷いたまま1号の背後に手を回し、鎖をほどいてやった。普段は冷たい鉄の鎖が、1号の体温が移ってすっかり温かくなっていた。
 1号は自由になった手を前に移動させ、痺れをほぐすように軽く動かすと、両手を俺の首の後ろに回して頭を引き寄せた。そのまま唇を奪われる。
 何度も触れ合わせ、舐められ、唇を割って中に舌を滑り込ませてくる。
 舌先が触れ合い躊躇った。万が一噛まれる事を恐れて口は避けていた。でも1号の方から差し入れてきたんだ、多分、大丈夫だろう……と舌を伸ばすと、絡めとられた。
「ハァ…ハァ…………口に、キスして欲しかった」
「その為に腕を自由にしろって言ったのか?」
「ああ、それに、こうして雪に触れられる」
 1号の反応は想像以上だった。思いの外1号は俺との行為を気に入って、はまっていたようだった。
 また唇を塞がれる、情熱的じゃないか。流されかけるが、余裕のある態度を装う。
「実際どうだよ、キスしてみて?」
「うん……口でセックスしているみたいだ」
「ん、なかなかイイ表現だ」
 1号の様子に俺も愉しくなってきた。
「雪、もっとして欲しい」
「……キスか? それとも……」
「両方」
「ハハ、おまえ素直で可愛いな。注文が多いけど応えてやろう」
 請われるまでも無かった。口づけで十分に煽られていた。
 体は繋げたままだった。再び動き出すと、1号はとても嬉しそうに笑った。

 ねだられて何度も何度もキスしながら抱き合い、動いた。1号の表情はいっそう蕩けていった。
 そんな1号を見下ろしながら、愉快さと多少の嘲りやら嫌味やらを織り交ぜて問いかけてやる。
「なあ、これが……こんなのが犯してるなんて言えるのか?」
「?」
「おまえは苦痛を味わってるか? 屈辱を感じているか?」
 1号はふるふると首を横に振る。
「そうだよな、俺はおまえの注文だっていくつも聞いてるし。おまえがしたかったのって、犯すんじゃなくてセックスなんじゃないか?」
「そう……かも知れない……」
「気持ち良くなりたかったんだろう?」
「うん……」
「だから犯してくれなんて言ったんだろう?」
「ああ……雪の言うとおりだ、オレは雪とセックスをしたかった」
「無理矢理レイプするんじゃなくて?」
「ああ」
 俺はまたニヤリと笑う。
「だったらもう無理にやろうとはしないよな? 気持ち良い方がいいもんな?」
「うん、もうああいうことはしない、こっちの方が良い」
「ま、それならそれでいい。もしまたおまえが強引にやろうとしたって俺は快楽に逃げるし」
「雪……」
 1号は少し困ったように笑った。
 言いくるめられた上に認めてしまった1号を相手にするのは実に楽しかった。行為に夢中になって、必死な様子も健気に見えて心をくすぐられる。やがて興奮が高まって、体内から精液が込み上げてくる感覚に伴うかのように1号に惹きこまれ……
 出す時にはあまりの気持ち良さに魂を持って行かれそうになった。心を奪われてしまいそうな気さえした。
 …………ヤバイ、頭を冷やせ。
 何でこんなことになったか……そうそう、1号にやられて我慢できなかったから。男の意地、プライドってヤツだ、許せなかった。
 体だけだ、大丈夫、俺は兄さんのもの。
 体と心を冷ましながら、心の中で何度も繰り返していた。


     ◇


 明くる日の昼。朝から半日探索をして小休止を取ろうとした時、1号に迫られた。
「おい、まだ昼だぞ」
「夜じゃないとだめなのか?」
「いや、そういうわけじゃねえけど、探索半日しかしてねえじゃねえか」
「1回だけでいいから、その後また日暮れまで探索しよう」
「おまえ……」
 思った以上に、かなり……夢中だ。どうやら本気を出し過ぎたらしい、もう少し抑えて淡白にやるべきだったか? それとも、1号が色に負けてるだけなのか。ともかく、よく言う『覚えたて』の状態になっていることは分かった。
 こういう時は止めても聞かないし、それに……既にその気になって出来上がったような状態で迫られると、正直つられる。
「しょうがねえな……1回だけだからな」
 1号の肩を引き寄せキスしてやった。
「で、どっちだ?」
「?」
「抱くか抱かれるか!」
「雪を抱きたい」
「ん……昨日は俺が上だったし…それでいいか。おまえが無理矢理じゃなくってどういう風に抱いてくれんのかねえ?」
 笑いながら1号を挑発した。
 樹林の中で人影を見ることはない。人目の心配は無いのだがまだ陽があるし……そう思って適当な茂みに移動した。
 今日の1号は前戯をした。触れて舐めて……俺のやり方をそのまま真似しているだけだが、心意気は汲んでやるべきところだ。
「フン……見よう見真似にしちゃあ、なかなかイイぜ」
 1号の努力は認められたし、好意的に熱心にされているのがわかる分、評価は上方修正された。

     †

 緊張していた。自分の心臓がドクドク鳴る音がうるさかった。逸る気持ちを抑えて、失敗しないよう、乱暴しないように、雪と体を重ねていった。体を進ませると雪の中で食い締められながらも、すんなりと受け入れられた。
 気を遣いながら抱こうとすれば、雪はとても良い反応を返してくれた。喜んでくれていた。そんな雪の顔を見ながら動くと、自分の体の感じる快感と相まってますます嬉しくなった。
 仰向けに寝かせた雪の膝を割り、両足を胸につくほど折り曲げさせて突き入れる。雪は機嫌よく笑って、時折甘い吐息を漏らした。
 ふと、雪は左手を繋がっている部分に持ってくると、指で輪を作って雪の中を行き来するものに軽く絡ませた。
「おまえのこれ、逞しいしさ、上手く使えば抱いた相手をイチコロに出来るぜ、きっと」
「そう、なのか?」
「ああ」
 雪はにんまりと笑うのだ。
「じゃあ、雪は?」
「うん?」
「雪も、そうなのか?」
「んーー、おまえと寝るのは気に入ったぜ」
 笑顔で答えてくれる雪。
 そうか……
 嬉しい。オレが雪を抱いて、雪が気に入ってくれている。嬉しい……
 でも、オレのことを気に入ってくれているんだろうか?
 ………考えてみれば、ほんの数日前までお互い恨んで殺し合おうとしていたんだ。雪は、そうだ、あの頃から俺のことをずっと嫌っていた。
 …………………………
 …………………………………
 …………………………………………
 突然、涙が零れだす。
 雪の上でぼろぼろと泣き出してしまった。涙が頬を伝って雪の胸に落ちる。
「え……ちょっ、え、なに? なんで?! おまえなんで泣いてるんだよ!!」
 雪が戸惑って困ってる、でも止まらない。
「雪は、オレのことを…嫌ってる…………」
「ええっ?!! 何言ってんだよ、いきなり! 1号っ!!」
 どうしたんだと言わんばかりに肩を強く掴まれる。
 そうなんだ、雪はそんなこと言ってない、気に入ったって言ってくれたんだから、混乱して当然だ。ぐずりながら声を絞り出す。
「雪とこういう風になれたのに……オレ、昔遊んでいた頃、雪のことが好きだった、大好きだった。雪に睨まれる様になって、嫌われて悲しかった。あの時はしょうがないって諦めてた、オレは水槽の中にいたし。でも……今はこうしていて、でも、………………雪にまた嫌われたらって思ったら感情が止まらなくなって……ダメだ、上手く言えない!」
 ――混乱と動揺の中に悲痛な魂の叫びがあることは雪にも伝わった。『悪かった』なんて言えるわけがない、今更………と声を呑んだことに1号は気付かない。
「泣くな、俺まで泣きたくなる」
 雪は体を起こし、その時にはもう既に瞳から涙がこぼれていた。
 どうして雪まで泣くんだ……? そう思いながらも上手く声が出てこない。
「やめろ、そんなこと言うな、本気でほだされちまうだろう……」
 雪にしがみつかれて、オレも雪の体を抱えて、二人してしばらく嗚咽を漏らして泣いた。
 …………………………
 …………………………
 どれけ時間が経っただろう。
 数分か、もっとか、分からないけれど……涙を流すだけ流して少しずつ心は落ち着きを取り戻していった。
 雪の頬を流れる涙を舐めとると、雪も同じように返してくれた。
 分かっていた、今がおかしい、今だけなんだろうと。雪も分かっているから、何も言わないのだろうと。
 一人、決意するように頷いて雪の瞳を見据える。
「lukaとシキと合流できるまでの間だけでいい、オレを嫌いにならないでくれ……好きでいてくれ」
 雪は少し驚いたような顔を見せた。その後、ふっと体の力を抜いた。
「その間、おまえも俺のことを?」
「ああ、雪を愛してる」
 雪はかあっと顔を赤くする。
「愛とかさ、おまえ分かってんのか?」
「分からない、でも言葉が出てきた、そう思ってるんだと思う」
「フッ……期間限定の恋人ってワケか」
 雪の言葉に否定は無かった。
「ありがとう、雪……」
 嬉しくて雪に口付けた。愛しくて舞い上がって、何度も。
「分かった、分かったから! ったくもう、大泣きしたりしてガキかっての!」
 自分のことは棚に上げているようだが……?
「ふぅ……続き、しようぜ?」
 雪に促されて、勿論異論は無かった。
 意外だったのはその後だ。
 事を終えた直後の雪の呟き。
「いいのか? 終わりで?」
「?」
「もっとしたくねえのか!」
「午後の探索は……しなくていいのか?」
「……気分だ! それに分かるだろう? 抱かれるとすっげー疼いちまうの」
 雪は仏頂面で視線を逸らす。
 こんなにも不機嫌そうな顔を見てどうしてオレはこんなに嬉しいんだろう。
 結局日が暮れて夜になるまでずっとしていた。


     ◇


 一時的な協力関係に、更に一時的な関係が加わって……1号は日々成長していった。サバイバル、戦闘、そして色事に関しても。
 きっと好きなんだろうな、ああいうコトが。ま、愉しいしな……俺も1号相手にゃ随分慣れちまった。

「おかしいよなあ、なんで俺達こんな事になってるんだ?」
 ある日の最中の他愛ない話だ。
「お互い恨みがあって殺そうとしてたってのに」
「オレのせいか?」
「さあ?」
「雪が気持ち良いことをしたからじゃないか」
「そーれは、いつまでもレイプされてちゃたまらないだろう? いちいち倒れたり、無駄な体力なんざ使ってる暇はねえ!」
「これだって体力を使うじゃないか」
「ああ。でも同じ体力使うんなら楽しい方が良いだろう」
「確かに……」
「なんで快楽ってさ、おまえがあんなことしたからだろうが」
「それは…………」
「俺達の今までとおまえの感情、だろう? そこまでいくとさ、理由なんてもうどこにあるか分からねえよな」
「なんでって言い出したのは雪じゃなかったか?」
「そうさなあ、とにかく今こんなことになってるのがおかしくて信じられないって言いたかったんだよ」
「うん、全然考えてもいなかった。でも……」
「なんだ?」
「嬉しい誤算かも知れない」
「1号……馬鹿正直だな、おまえって」
「おかしそうだな、雪」
「ああ、面白れえ。面白くて楽しいぜ、まったく」
 これで少しでも早くこの樹林を抜け出して地球塔へ、兄さんのいる場所に辿り着ければ言うことは無えんだけどな……
 今しばらくはコイツとの付き合いが続くことになりそうだ。嫌な事や不安を一時忘れてストレス発散して、日々希望を捨てずに諦めずに前進する。振り返りゃ苦々しい思いもあるが、結果的には案外良い具合に行っているのかも知れない。

「今日は南を目指すぞ!」
「ああ」
 装備を整えて食料を準備して、今日も探索だ。





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